トピックス

Second Time Around ── On D. A. Miller’s Film Criticism オンライン・シンポジウム「 Second Time Around ── D. A. ミラーの映画批評をめぐって」

報告:佐藤元状

日時:10月30日(土)11:00~13:00 (日本時間)

Introduction

Part One:  
“The Secret of Reading: Hitchcock, Chabrol, D. A. Miller.”
Motonori Sato (Keio University, Japan)
“Film Writing as a Way of Life.”
Mary Shuk-han Wong (Lingnan University, Hong Kong)

Discussion with D. A. Miller

Part Two:
“Second Time Around, With a Twist: Transnational Film Adaptations.”
Jerrine Tan (City University, Hong Kong)
“Ghost of a Movie”
Tadashi Wakashima (University of Kyoto, Japan)

Discussion with D. A. Miller

図1.jpg


2021年10月30日にZoom上で、オンライン・シンポジウム「Second Time Around ――D. A. ミラーの映画批評をめぐって」を開催した。休日にもかかわらず、30名近い参加者に恵まれて、活発な議論が行われた。以下、プログラムの進行に沿って、当日の模様を報告していきたい。

イントロダクションでは、佐藤がD. A. ミラーの経歴、及び本シンポジウムの趣旨について以下のような紹介を行った。

D. A. ミラーは、文学と映画の二つの領域において、優れたモノグラフを書き続けているアメリカの傑出した批評家である。イギリス文学の分野では、The Novel and The Police (1988)や、Jane Austen, or The Secret of Style (2003)の二作がとりわけ重要な貢献となっているが、近年は映画批評の分野でめざましい業績を上げている。Hidden Hitchcock (2016)のいわば続編とも言える映画批評論集Second Time Around—From Arthouse to DVD (2021)が上梓されたばかりである。

本シンポジウムでは、Second Time Aroundの出版を記念して、D. A. ミラーをゲストに四人のアジアの研究者が彼の精緻かつ大胆な映画批評に応答する。日本の英文学者・翻訳者の若島正、香港の映画・文学研究者のメアリー・ウォン、シンガポール出身の現代英文学研究者のジェリン・タン、英文学・映画研究者の佐藤元状がプレゼンテーションを行い、D. A. ミラーに再び応答してもらう。

Second time around_01.jpg

第一部では、佐藤が“The Secret of Reading: Hitchcock, Chabrol, D. A. Miller” というタイトルの研究発表を行なった。この発表は、D. A. ミラーの二つの映画批評集、Hidden Hitchcock (2016)とSecond Time Around—From Arthouse to DVD (2021)の関係について考察したものであり、ヒッチコックとD. A. ミラーの間の「転移」関係が、実はヒッチコックとシャブロルの間の「転移」関係の反復となっている点を明らかにしたものである。詳細については、本発表を元に佐藤が自己翻訳した日本語論文「読むことの秘密――ヒッチコック、シャブロル、D. A. ミラー」(『教養論叢』143号、2022年3月刊行予定)を参照していただきたい。

続いて、香港の映画・文学研究者のメアリー・ウォンが“Film Writing as a Way of Life”というタイトルの研究発表を行なった。この発表は、D. A. ミラーの新著Second Time Around—From Arthouse to DVD のコンセプトである「二回目の視聴経験」の意義を検証したものであり、なぜ映画を(少なくとも)二度観なくてはいけないのか、という根源的な問いについて、オーディエンスに深い考察を促すものだった。

Second time around_02.jpg

第二部では、シンガポール出身の現代英文学研究者のジェリン・タンが“Second Time Around, With a Twist: Transnational Film Adaptations”というタイトルの研究発表を行なった。香港映画の『インファナル・アフェアズ』三部作が、マーティン・スコセッシによって『ディパーテッド』としてリメイクされたことは、よく知られているが、その関係を「国家横断的なアダプテーション」として読み解いた点が、この発表の斬新なところだ。

Second time around_03.jpg

続いて、英文学者・翻訳者の若島正が“Ghost of a Movie”というタイトルの研究発表を行なった。D. A. ミラーによるヒッチコックの「精読」に対して、若島はアントニオーニの『欲望』の「精読」で応じた。この精読対決が、本シンポジウムのクライマックスであり、両者のダイアローグのなかで「精読」とは何か? という興味深い、知的な議論が交わされたことは、今でも強烈に記憶に残っている。D. A.ミラーは「精読とは、反道徳的な告白である」と断言した。この言葉は、この類まれなアメリカの批評家の信条告白と言っても良いのではないか。

(佐藤元状)

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年3月3日 発行