翻訳

ロレイン・ダストン、ピーター、ギャリソン(著)、岡澤康浩、瀬戸口明久、坂本邦暢、有賀暢迪(訳)

客観性

名古屋大学出版会
2021年8月
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本書は、19世紀半ばに生じた「客観性ショック」と呼ぶべき一大事件を取り上げ、その衝撃を認識と視覚の歴史の中に位置づけ直す。本書が明らかにするところによれば、19 世紀になって主観性の排除として理解されるようになった「客観性」は、科学活動や科学の組織化を制御する理念として急速に受け入れられ、この新たな理念に導かれて科学的実践、科学的視覚、そして科学的主体さえもがラディカルに再編されていった。だが、客観性の登場がもたらした衝撃は科学の世界をはるかに超えていた。なぜなら、客観性の歴史とは、同時にその裏返しである主観性の歴史なのであり、客観性と主観性という概念対が新たに編成されるとき、その概念に導かれて自らの生き方や視覚のあり方を変えるように求められるのは、科学にたずさわるものだけではすまないからだ。19 世紀をとおして、客観性が科学を特徴づけるものとなるのに並行し、主観性は芸術を特徴づけるものとなっていく。そして、主観性が客観性に反するものとされるように、芸術もまた科学に反するものとして自らを定義し、そのあり方を再編成していく。それゆえ、客観性の歴史とは単なる科学の歴史にとどまらず、19 世紀に生じた客観性と主観性、科学と芸術という二分法を受け入れ、逆らい、あるいは乗り越えようとしながらもその二分法と共に生き続ける、わたしたち自身の歴史でもある。18世紀から20世紀にまたがるこうした認識と視覚の劇的な変貌を、本書は豊富な図版とそれを支えた実践や表象装置への細やかな目配りによって説得的に描き出すことに成功している。

(岡澤康浩)

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年3月3日 発行