アクター・ジェンダー・イメージズ
本書では、ジェンダーを一つの焦点に映像テクストにおける俳優の身体イメージと、相補的にマスメディアを通じて構築されたスターイメージが論じられる。これまで著者が切り拓いてきた映画スター研究の方法が継続、発展されつつ主に取り上げられるのは第二次世界大戦後の日本のスター俳優たちだが、四名の男性スターが登場する「シークエンス」が組まれているのは、これまで著者の女性映画スター研究に触れてきた者としては嬉しい。さらに韓国の俳優チョン・ドヨンおよび映画『バーフバリ』(インド)における筋肉の映像、ハリウッドのスーパーヒーロー映画についてそれぞれに一章があてられ、近年の国際的な動向 についても目配りがなされている。
主に雑誌掲載の批評で構成されている成り立ちゆえに各章の独立性が保たれており、全体的な連続性よりもむしろ各章毎に異なる方法、個々の洞察や映画史的な事実、映像メディアをめぐる新たな視点が一様ならざる仕方で読み手を刺激する。各論点は編年的な流れのなかでゆるやかにつながりながら、様々な読みに対して開かれている。
本書の見取り図は「原節子から綾瀬はるかへ」。著者が厚く研究してきた原節子、京マチ子ら歴史的な—むしろ神話的というべきか—スターたちだけでなく、現在一線で活躍する満島ひかりと山田孝之そして綾瀬はるかについて映像メディア作品の歴史的射程にとどまらず社会的な角度からの批評がなされている。とりわけ満島、綾瀬に関してはジェンダー表象 に注視しながらその身体イメージのアクチュアリティが語られているのも見逃せない。
著者はかつて『スター女優の文化社会学』においてスター研究の「不純」を説いた。映画作品を対象としたスターの分析と、ジャーナリズムとファンによって構築されるスターイメージの把握の双方にまたがる「不純」を敢えて引き受けたわけだが、本書は「研究」と「批評」のあわいでさらに「不純」度を高めつつ、俳優に着目して映像メディア作品をみる、あるいは論じる手がかりを与えてくれるだろう。
(藤田奈比古)