編著/共著

難波優輝、ほか(分担執筆)

異常論文

早川書房
2021年10月
複数名による共(編/訳)著の場合、会員の方のお名前にアイコン()を表示しています。人数が多い場合には会員の方のお名前のみ記し、「(ほか)」と示します。ご了承ください。

異常論文と呼ばれる、アカデミックなレポート、論文、批評、講評を模したフィクションジャンルの作品が集められたSF短編集。このジャンルは、架空の書評──スタニスワフ・レム『完全な真空』、架空の生物誌──ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類』、など、これまで、いわゆる「架空論文」と呼ばれてきたジャンルに隣接している。

しかし、特筆すべきは、現在のSF作家たちが、SF的なオブジェクトを利用して、それぞれの異常論文が存在するはずの存在しない世界観全体を、異常論文によって立ち上げようとしている点にある。つまり、異常論文とは、現実に挿入された虚構世界のメトニミーなのだ。

その意味で、異常論文とは、SFスタディーズの金字塔『SFの変容』において、SF作品の特質としてダルコ・スーヴィンが指摘するところの「認識論的異化」の極北である。彼によれば、SF作品とは、現実とは異質な統一的な世界を描くことで、読者に現実に対する批判的な視座を提供することを目指すものだとされる。

『異常論文』の異常性は、たんなる奇矯さというより、こうした認識的な価値に賭けられたものなのである。

難波優輝

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年3月3日 発行