ハーレム・ルネサンス 〈ニュー・ニグロ〉の文化社会批評
本書は、1920年代から1930年代にかけて、アフリカ系アメリカ人を主たる担い手として展開された芸術文化運動である「ハーレム・ルネサンス」をめぐり、計4部に分類された、26本の論考、5本のコラムによって構成されている。多岐にわたる領域と国境を越えた移動に基づく、その奥行きを捉えるために、アメリカ文学を軸に、英語圏文学、フランス語圏文学、歴史学、人類学、表象文化研究、経済学などの論考を幅広く収めた。
副題を「<ニュー・ニグロ>の文化社会批評」としているように、言説史を辿ると「ハーレム・ルネサンス」という呼称自体が1970年代以降に定着していった経緯を確認することができる。「ニュー・ニグロ(新しい黒人)」の芸術文化運動としての原義に立ち返り、本運動の担い手たちが当時思い描いていた「ルネサンス」のヴィジョンを探り、その全体像を捉え直すことを試みた。
「第Ⅲ部 広がる表象芸術の地平」では、「音楽」(クーン・ソング、ブルース、ジャズ)、「演劇」(ハーレムの小劇場、黒人巡業サーキット)、「映画」(人種映画)、「スポーツ」(ニグロ・ベースボール・リーグ)、「美術」など、表象文化芸術の奥行きを概観するパートを擁した。インターネットを通じて実際の作品に接しやすくなっている現在、それぞれの分野を文化史的に辿る試みや、同時代の表象文化を横断的に捉える視点からの研究がより一層求められる。その指針となることを目指した。
(中垣恒太郎)