物語るちから 新しいアメリカの古典を読む
新アメリカ文学の古典を読む会は、1994年にアメリカ文学研究者である亀井俊介氏の岐阜女子大学への着任を契機に、主に中部地区の、当時若手であったアメリカ文学研究者が亀井氏の下に集い発足した「アメリカ文学の古典を読む会」を起源に持つ読書会型研究会である。「現在ではあまり読まれなくなったものの、実は重要な作品」であることを作品選択の基準とし、自分の専門ではない様々な文学作品に対して、各自の文学観を示し、読みの可能性を探ることを目指した。その理念を継承し、本会では20世紀初頭から現在に至る「現代の古典」と呼ぶべきアメリカ文学作品を毎年2冊ずつ採り上げ読書会形式で討論を重ねた。本書はその成果となる。20世紀を十年間の単位で区切り、それぞれの十年間を代表する作品の論考を配置した。
同じテクストを共有しながら読み手がそれぞれの視点、関心、文学観に基づき、読解し、語ることを通じて、文学に触れる楽しさを実感する。ナイーブではあるだろうが、文学作品と向き合う原初の動機、楽しさに立ちかえることが読書会型研究会の醍醐味である。テクストに基づいてそれぞれの読み方を披露しあう「精読」と、専門にとらわれず幅広い作品に触れる「雑読」との、いわば、「ミクロ」と「マクロ」の視点で文学の世界を楽しむ実践である。この理念を「物語るちから」として本書の題名に込めた。亀井俊介氏からの特別寄稿(「文学研究と『私』」)も収録。
(中垣 恒太郎)