映画論の冒険者たち
映画理論をめぐっては、これまでにも『映画理論集成』(岩本憲児・波多野哲朗編、フィルムアート社、1982年)、『「新」映画理論集成 ①歴史/人種/ジェンダー』、『「新」映画理論集成 ②知覚/表象/読解』(いずれも岩本憲児・武田潔・斉藤綾子編、フィルムアート社、1998年/99年)、そして『アンチ・スペクタクル──沸騰する映像文化の考古学』(長谷正人・中村秀之編訳、東京大学出版会、2003年)といった画期的なアンソロジーが刊行されている。しかし、いずれも版元品切の状況が続いているため、編者の2人は、映画論の豊かな広がりを手軽に見渡せるツールが欠けているというフラストレーションを感じていた。
そのような背景もあって企図された本書は、古典的映画論から映画批評を経て、フィルム・スタディーズや哲学的な映画論まで、独自のやり方で映画を論じてきた21名の人物を取り上げ、その所説を紹介する概説書である。紙幅の関係で人数を絞らざるをえなかったが、英語圏における類書で必ずと言っていいほど取り上げられる面々だけでなく、批評家のV・F・パーキンズや蓮實重彥を入れたり、映画研究においてはとかく軽視されがちなフレドリック・ジェイムソンを扱うなど、編者としてはなるべく多様で興味深い人選になるよう気を配ったつもりである。
本書を編んで痛感したのは、映画論の重要文献の翻訳が端的に不足しているということだ。その状況に照らすと、本書刊行の直後にトム・ガニング『映像が動き出すとき──写真・映画・アニメーションのアルケオロジー』(長谷正人編訳、みすず書房、2021年)が世に出て、またクラカウアーの『映画の理論』、ランシエールの『映画的寓話』なども近刊予定であることは嬉しい限りだ。すぐれた映画論が日本語で新たに書かれるだけでなく、これを機に、翻訳紹介も活性化することを切に希望している。
(堀潤之)
※『映画論の冒険者たち』関連ブックガイドとして、東京大学出版会のnoteで、約70冊の映画論・映画理論関連書籍を編者2名のコメント付きで紹介しているので、併せて参照してほしい(https://note.com/utpress/n/n21ebd7b26448)。