編著/共著

大﨑智史、北野知佳、唄邦弘 (著)

問う社会学 日常をめぐるいくつかの視点

京都芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎
2021年9月
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わたしたちは、個人として自由な生活を送る一方、他方では人々との間で社会を形成しており、この個人と社会との関係性は民族・階級・性別といった社会的属性だけではなく、グローバル化や情報化という新たな状況のなかでより複雑なものになってきている。

本書は、社会学の基本的理論や概念を網羅的に解説するものではなく、身近な事象を社会学的な視点から「問う」ことを目的とし、主に2つのテーマを取り上げる。1つは、社会制度と個人との社会的関係──共働き世代に求められる理想の〈母親像〉(第1章)、現代社会の〈男性性・女性性〉(第2章)、近代化された食文化のなかでの〈家庭料理〉とは(第3章)、〈健康〉の道徳的・倫理的価値(第4章)。2つめは、情報化社会における個人のあり方──人と〈モノ〉とのつながりによって生まれる社会的関係(第5章)、デジタルテクノロジーと現代の〈監視社会〉(第6章)、ソーシャルメディアを介した〈コミュニケーション〉(第7章)、〈ポストトゥルース〉と呼ばれる客観的な事実よりも感情や個人的な信念による世論形成(第8章)。日々の生活の部分的で一面的に過ぎないこれらのトピックは、社会そのものを理解する契機となる。

2020年1月に発生した新型コロナウイルス感染症による様々な生活の変化は、わたしたちの行動が社会に何らかの影響を与えるものであり、また社会によって規定されていることをこれまで以上に再認識させた。日本では「ニューノーマル」という指標のもと、他者と社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保ち、テレワークやオンラインでのコミュニケーションが日常となった。このような状況は、人々の行動や常識を変化させつつ、新たな価値観を生み出すとともに、これまで社会が抱えていた問題を浮き彫りにした。たとえば、感染者増加による半強制的な人々の活動自粛や経済縮小に伴う失業者の急増は、男性性・女性性という従来の価値観が現在の日本社会にも根強く残っていることを明らかにした。また感染症に対する恐怖心は、誤解や情報の錯綜を招き、マスクの未着用やワクチン未接種を非難する声が街中のみならずソーシャルメディア上でも多数現れた。

社会を「問う」ことは、まさに日常のなかで感じる違和感や不自由さついて自覚し、対処するためのふるまいや考え方を身につけることである。またそれによって、わたしたちの日常が決して当たり前のものではなく、社会そのものを形作り、変容させるということを意識することができる。

(唄邦弘)

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年3月3日 発行