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多様な観点からの日本映画 ── 国際オンラインシンポジウム

報告:藤木秀朗、小川翔太、馬然

日時:2021年3月5日-7日(映画特集配信:3月1日–13日)
使用言語:英語、日本語
主催:名古屋大学人文学研究科映像学分野・専門、ウォリック大学映画テレビ研究学科
協賛:名古屋大学人文学研究科附属超域文化社会センター
後援:名古屋大学、文部科学省「スーパーグローバル大学創生支援」

ワークショップと特集上映の詳細については、こちらをご覧ください:


本シンポジウムは、「日本映画をテーマにした脱中心的でヴァーチャルなグローバル・ライブ・シンポジウム」と銘打って開催されました。2020年刊に行された二冊の共編著書──The Japanese Cinema Book(BFI)とRoutledge Handbook of Japanese Cinema (Routledge)── の執筆者を中心に27名の研究者が世界各地から集結し、6つのテーマごとにセッションに分かれてワークショップを行いました。その目的は、多様な観点からの批判的かつ建設的な問題提起を基にして、日本映画研究というダイナミックな分野をさらに発展させるべく、フロアーを交えた参加者全員で議論を行うことでした。

周知のように、「COVID-19」パンデミックは、世界規模で行われる学術交流や集会のあり方に大きな影響を与えました。今回のような大規模な学術イベントでは、主催者は、このような状況がいかに困難であるかを理解し、その上で、デジタルプラットフォームを最大限に活用して、イベントをデザインし、それを実現する必要があります。本シンポジウムでは、トランスローカル性を重視し、発表・議論はすべて同時通訳を利用して英語と日本語で行われました。スケジュール自体が、時差を超えて世界各地からアクセスできるようにしている点で実験的なものでした。また、ワークショップと双璧をなすものとして、大学院生たちのキューレーションによる映像作品シリーズの配信企画もありました。

藤木秀朗とアラステア・フィリップスが編集したThe Japanese Cinema Bookは、有名な監督から、人気があったにも関わらずこれまで学術的には見過ごされてきたジャンル、さらにはエコロジー、観客、ホームムービー、植民地の歴史、ハリウッドやヨーロッパとの関係といったテーマに至るまで、さまざまなテーマに関して新しい観点を提示するものでした。ジョアン・ベルナルディと小川翔太が編集したRoutledge Handbook of Japanese Cinemaは、プレ・シネマからポスト・シネマを包摂する長期持続的な動画映像史を検証しながら、作家性、ジャンル、産業といった予てから議論されている諸問題を、ジェンダー、アーカイブ研究、メディア理論、ネオリベラリズムといった広い概念枠と関連づけながら問い直すことを狙いとするものでした。本シンポジウムでは、両書に寄稿した執筆者たちが、テーマごとに再編成された6つのセッションに分かれ、各自が担当した章を手短に紹介した上で、さらなる議論や探究を触発するような問題を提起しました。いくつかのセッションでは、博士候補の大学院生が発表者として加わり、両書とは異なるフレッシュな立場からそれぞれの研究成果を披露しました。ワークショップのプログラムは、次のとおりでした。


開会の辞 藤木 秀朗、小川 翔太、アラステア・フィリップス、ジョアン・ベルナルディ

I メディア化と美学
司会:朱 宇正
トーマス・ラマール(シカゴ大学)「合成と切り換え──アニメの間メディア史」
ヨハン・ノルドストロム (都留文科大学)「サイレントとサウンドの間──「サウンド版」の閾空間」
レイナ・デニソン(イースト・アングリア大学)「映画のマンガ──アダプテーションと間テクスト性」
草原 真知子(早稲田大学)「写し絵 ──プレ・シネマ的映写実践としての幻燈」
梶川 瑛里(名古屋大学-ウォリック大学)「1980年代アイドル ── 有名性、メディア、視聴覚性」

II 文化とポリティクス
司会:長山 智香子
ダイアン・ウェイ・ルイス(ワシントン大学セントルイス校)「革命のホームムーヴィー── 戦間期におけるプロレタリア映画制作とカウンター動員」
洞ヶ瀬 真人(名古屋大学)「学生運動映画 ── 対話的アプローチ」
アレックス・ザルテン(ハーバード大学)「「アマチュア」映画とマンガのメディアモデル」
レイチェル・ハッチンソン(デラウェア大学)「教育としての検閲── 映画の暴力とイデオロギー」
ジョエル・ネヴィル・アンダーソン(ニューヨーク州立大学パーチェス校)「画面の向こうを指さすこと── 3.11三重災害後のアーカイブ化、監視、アトム化」

III 現前と表象
司会:アラステア・フィリップス
ジェニファー・コーツ(シェフィールド大学)「ヤクザ映画──「民衆によって確証された」ジャンル」
マイケル・クランドル(ライデン大学)「怪奇映画の亡霊」
朱 宇正(名古屋大学)「分離と接続 ── 昭和30年代の映画的家庭」
木下 耕介(群馬県立女子大学)「多視点のナラティヴ ──『羅生門』(1950)から『告白』(2010)へ」

IV 制度と実践
司会:ジョアン・ベルナルディ
上田 学(神戸学院大学)「空間と上映 ── 映画興行の歴史」
谷川 建司(早稲田大学)「輸出コンテンツとしての怪獣映画 ── 日本映画輸出振興協会再考」
羽鳥 隆英(早稲田大学)「撮影所からの「逃亡者」── 池部良、佐田啓二、1960年代初期の映画からテレビへの移行」
叢 晨(マギル大学)「「正確な音声」を歴史化する── 声優、視聴覚の一致、メディア環境」

V 枠なき日本映画
司会:小川 翔太
宮尾 大輔(カリフォルニア大学サンディエゴ校)「撮影法の環太平洋史」
馬 然(名古屋大学)「映画祭の裏返し── 日本映画と映画祭プログラミング」
山本 直樹(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)「ソヴィエト・モンタージュ理論と日本の映画批評」
テヅカ ヨシハル(駒澤大学)「眼差しの布置── ヨーロッパと日本映画史」
クリストファー・M・カブレラ(名古屋大学)「コンタクト・ゾーンとしての小笠原諸島──『潮の狭間に』(2018)とシティズンシップ」

VI 多様な観点
司会:馬 然
藤木 秀朗(名古屋大学)、アラステア・フィリップス(ウォリック大学)「The Japanese Cinema Bookについて」
ジョアン・ベルナルディ(ロチェスター大学)、小川 翔太(名古屋大学)「Routledge Handbook of Japanese Cinemaについて」

開会の辞
馬 然、長山 智香子、朱 宇正


個々のプレゼンテーション・セッションは事前に録画され、当日のセッションが行われる前に視聴できるようになっていました。それにより、Zoomセッションでは、発表者と様々なキャリアステージの参加者との間で行われた質疑応答を中心としたオンラインでのやりとりに集中することができました。世界的なパンデミックにより、今日私たちは国境とトランスローカルな相互関係の問題を再考する必要に迫られています。こうした中で行われた今回のトランスナショナル・コラボレーション・カンファレンスは、その革新的なフォーマットを特徴としながら、個々に孤立した状態を超えて、思考と交流のコモンズを形成する決意を示すものでした。今回のシンポジウムに触発された研究が今後さらに、日本映画に内在するトランスローカル/トランスナショナルな想像力を再考することを促し、この分野や他の分野でのよりエキサイティングな研究を刺激することを期待しています。

(馬然)

Japanese Cinema from Multiple Perspectives.png

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2021年10月25日 発行