翻訳

ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(著) 桑田光平鈴木亘(訳)

受肉した絵画

水声社
2021年5月
複数名による共(編/訳)著の場合、会員の方のお名前にアイコン()を表示しています。人数が多い場合には会員の方のお名前のみ記し、「(ほか)」と示します。ご了承ください。

原書は1985年に刊行された。ジョルジュ・ディディ=ユベルマン(1953~)の初期の著作である本書は、バルザック『知られざる傑作』への注釈というかたちをとりつつ、その芸術小説に登場する老画家フレンホーフェルの夢を、古今の絵画論や哲学、精神分析を縦横に援用しながら論じたものである。その夢とは、絵画に――単に生き生きと描くことを超えて――文字通りの生命を宿らせる、というものだ。この不可能な探求を跡づけるために著者が引き合いに出すのは、例えば絵画の理想にして限界の色彩としての「肉色」であり、あるいは平面でありつつ同時にプンクトゥム的細部として機能し、それによって生命の徴候をわずかのあいだ出現させる、« pan »(面と同時に布切れや端を意味する)の観念である。総じて本書で描き出されるのは、絵画を受肉させる=絵画に血と肉を、つまりは命を与えるという、西洋美術史そのものの絶対的使命あるいはオブセッションの、探求と挫折の一断面なのだ。

本書には2010年に同じく水声社から刊行された『知られざる傑作』(『バルザック芸術/狂気小説選集1』所収、芳川泰久訳)も再録されている。また本書に先立って『知られざる傑作』を絵画論の文脈で解釈したものとして、ユベール・ダミッシュ「絵画の下層」(『カドミウム・イエローの窓』水声社、2019年)を挙げておく。

(鈴木亘)

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2021年10月25日 発行