翻訳
数理哲学論集 ── イデア・実在・弁証法
月曜社
2021年6月
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アルベール・ロトマン(1908-1944)は、1930年代前半に活動を開始した数理哲学者であり、レジスタンス活動のさなかナチスの銃弾に倒れた。本書は、短い生の中で展開された彼の独創的な思考に触れることのできる、初の邦訳論集である。本論集から浮かび上がるロトマンの独創性は、少なくとも三つある。まず、彼がフランスとドイツの哲学を架橋する存在であったこと。彼のイデアについての着想には、新カント派のプラトン解釈とフランスにおける哲学史・数学史の伝統の双方が流れ込んでおり、第二論文に見られるハイデガーへの関心もこうしたイデア論の延長線上にある。次に、彼がいわゆる数学基礎論を専門としていないこと。第一論文から分かる通り、抽象代数学やトポロジー等の「現代的展開」を追跡するところに、彼の真骨頂がある。そして、第三・第四論文で明らかになる通り、数理哲学が物理学の哲学と密接に関わって展開されること。この点で彼の仕事は、エピステモロジーの系譜においてカヴァイエスやバシュラールの仕事を補い、敷衍する価値を持つ。ロトマンといえばドゥルーズやバディウへの影響がしばしば言われるが、数学の「実在」を捉えるために潜在的なイデア的次元へと昇る、その知的努力の昂揚をまずは経験してほしい。
(中村大介)