ベドジフ・フォイエルシュタインと日本
本書は、チェコの建築家ベドジフ・フォイエルシュタイン(1892-1936)の足跡をたどる書物である。とはいっても、彼の名前を初めて耳にしたという人も多くいるだろう。だが、その経歴はじつに輝かしいものである。プラハではカレル・チャペックの戯曲『ロボット』のプラハ初演で舞台美術を担当し、パリでは「コンクリートの父」と呼ばれるオーギュスト・ペレの許で働き、さらに東京ではアントニン・レーモンドと数多くの建築を手がける。
多才であったフォイエルシュタインの活動範囲は広範なものであったため、その全体像を捉えることは困難を極めていた。だが著者チャプコヴァー氏は、フォイエルシュタイン同様、ヨーロッパ、アメリカ、日本各地の資料を丁寧に調査し、類まれな人物像を描き出すことに成功した。
なによりも日本の読者の関心を惹くのが、日本建築との関係である。同じくチェコ出身で、フランク・L・ライトとともに帝国ホテルの設計に携わったレーモンドに招聘され、1926年、フォイエルシュタインは来日する。東京の新しいランドマークともなった聖路加国際病院は、数多くの建築家が携わる一大プロジェクトであった。アメリカの聖公会、チェコスロヴァキアやアメリカの建築家、日本の関係者らが複雑に関与する様相を、著者は「トランスナショナルネットワーク」という視点から解明する。
さらに、著者は、旧ソ連大使館、ライジングサン石油の社宅(横浜)など、ほぼ忘れられていた建築がフォイエルシュタインの作であったことを示し、日本の地に彼の手によるモダニズム建築が残存していたことを明らかにする。なかでも、建築家土浦亀城・信子との交流を論じた箇所は、フォイエルシュタインの精神が土浦を経由して、その後の世代に影響を与えたことを示唆している。
このように、本書は、フォイエルシュタインという人物を通して、中欧と日本のモダニズムが融合する様相を巧みに描いた論考となっている。
(阿部賢一)