環世界の人文学 生と創造の探究
この本では、計5年にわたる2つの共同研究で対話を重ねた文学、哲学、人類学、歴史学、建築学といった諸領域の研究者が、各々の「環世界」観を描き出すことに取り組んでいる。
「環世界」の語は、日高敏隆のユクスキュル、木村敏のヴァイツゼッガーの翻訳のおかげで、今日でもそれなりに耳馴染みのあるものといえるだろう。しかし近年俄かに高まった「人新世」という視座への関心のように、「環世界」という20世紀初頭に提案されていた視界のありようもまた、現在の地球を生きる人間たちに、新たな実感を伴って迫るべきなのではないか ── ではいま私たちに見えてくる「環世界」とは、どのようなものか?その問いへの、22名の執筆者の応答が本書の内容である。
ユクスキュルとヴァイツゼッガーが論じる「環世界」は、「人間」に対して自らがどこに立つのか、その最初に選ばれる理論的方位の異同とも呼ぶべきものによって、そこから開かれる地平において、互いに隔たりを見せるように(少なくとも、編者の一人である筆者には)思われる。本書は「生の理論的考察」、「生の諸世界」、「歴史にみる生の諸実践」の3部に分けて構成されているが、この分割は、「(人間の)生」を捉えようと試みる視角が孕み続ける、本質的な「ずれ」に応じようとして生まれたものだ。願わくば、それらがひとつのプリズムを構成するものとして、読者に届くことを祈りつつ。
(田中祐理子)