編著/共著
復刻 資料「中津川労音」: 1960年代における地域の文化実践の足跡を辿る
風媒社
2021年4月
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本書刊行の最たる目的は、1960年代の音楽文化に関する基礎資料の整備である。自然科学の分野だと基礎研究の重要性が指摘されているが、人文科学、とりわけ戦後日本の音楽を学術的に研究対象とする際に、どれだけ基礎資料が整備されているかは心もとないのが現状である。
高度経済成長真っ只中の1964年の東京オリンピック開催前後には、東海道新幹線開業、高速道路の開通といったインフラの整備がなされた。これらは東京一極集中に拍車をかけ、地方の過疎化も深刻化した。こうした時代のなかで、一地方である岐阜県中津川にあった中津川労音の機関誌を全面復刻したのが本書である。なお、労音とは音楽鑑賞団体であり、勤労者音楽協議会の略称である。
「名も無き人々」が労音という場に集い、音楽を楽しんだことが機関誌の随所から読み取ることができるのだが、当初はいかにも全国労音の一支部だったのが、途中から労音に反旗を翻し、労音という名を残してはいるものの、実質的には中津川独自の音楽文化を生み出そうとする若者の意気込みが伝わってくる。その結実として、日本の野外音楽フェスティバルの黎明期のものである全日本フォークジャンボリーが開催されたのである。本書が、地域のあり方、日本の音楽文化の再考とローカルアイデンティティ(地元愛)を考える契機の一助になることだろう。
(東谷護)