コンヴァージェンス・カルチャー ファンとメディアがつくる参加型文化
本書の原著は2006年に出版され、英語圏のメディア研究の中でも特に受容研究やファン研究に大きな影響を与えた。その辺りの事情も含む本書の概要や著者の来歴などについては「訳者あとがき」の一部(https://shobunsha.info/n/n8762968c48c9)が公開されているのでそちらに譲ることとして、ここではいかに本書が表象文化論学会と学術的関心を共有しているかを強調する。
テレビのリアリティー番組やタレント・ショウに始まり、『スターウォーズ』や『ハリー・ポッター』といった映画、さらには米国の大統領選に際してYouTubeに投稿された政治風刺動画などを渉猟する本書は、本学会のホームページで掲げられている「テレビ、映画、情報ネットワークなどが形成する現代的なメディア空間とそこに生起するポップ・カルチャーに至るまで、多種多様な文化現象の解明をめざし」たものである。
文化商品の生産者、その流通や版権を管理する商業的プレイヤー、そして文化商品を理解/誤解し楽しむファンや消費者との間での複雑な相互作用に注目している点は、まさに「文化的事象を孤立した静的対象として扱うのではなく、それが生産され流通し消費される関係性の空間、すなわち、諸力の交錯する政治的でダイナミックな「行為」の空間の生成と構造を考察」したものだ。
このように表象文化論に関わる様々な理論的関心を豊富な具体例とともに論じた本書であるが、2021年の現在の状況から見た時に不十分な点もある。すでに松本友也氏によってタイのデモで『ハム太郎』の歌が歌われている状況の分析(https://qjweb.jp/journal/48545/)に本書が使われており、このように積極的に本書を利用し日本やアジアの現在の状況の中でジェンキンズの議論をアップデートしていただきたい。
(渡部宏樹)