編著/共著

木俣元一・松井裕美(編著)、デイヴィッド・コッティントン、久保昭博、河本真理、吉澤英樹、池野絢子、鈴木雅雄、木水千里飛嶋隆信(著)

古典主義再考II 前衛美術と「古典」

中央公論美術出版
2021年1月
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「古典」とは何か。それはいかに形成され、受容されてきたのか。本書は、芸術の歴史認識に関わるこの大きな問いをめぐって編まれた論文集の第二巻である。古代ローマ以降の「古典」の形成を扱う『古典主義再考I 西洋美術史における「古典」の創出』に続くこの巻では、20世紀前半の前衛芸術と古典主義の複雑な関係が、文学・美術の分野において踏査されている。

オンライン上で参照できないため、本書の目次をまず挙げておきたい。

二〇世紀美術史における〈古典〉の複数性/松井裕美
バック・トゥ・ザ・フューチャー?──前衛、古典主義と〈後衛〉の概念/デイヴィッド・コッティントン
前衛と古典主義回帰──モデルニテのパラドックス?/久保昭博
前衛/古典主義/プリミティヴィズム──両大戦間期の美術の問題系をめぐって/河本真理
文化相対主義の時代におけるローカルなモダニズムとしての古典の所在──ポール・モラン『ルイスとイレーヌ』(一九二四年)を読む/吉澤英樹
カルロ・カッラとイタリアにおける秩序回帰の始まり/池野絢子
水瓶とカスタネット──ピカビアのアングル贋作をめぐって/鈴木雅雄
シュルレアリスムと古典主義/木水千里
両大戦間期のフランス芸術における「伝統」と「危機」──ヴァルデマール・ジョルジュの批評の変遷/飛嶋隆信

前衛芸術と古典との関係については、一般に、大戦間期のヨーロッパに生じた「秩序への回帰」と呼ばれる古典回帰の動きを中心に研究されてきた。本書は、この現象を検討の主軸にしつつも、美術史学上のいわゆる修正主義の立場を乗り越え、19世紀以降の前衛に対する「後衛」概念の検討や、古典回帰に批判的な立場をとったシュルレアリストの実践など、幅広い視点からアプローチする内容になっている。

その多彩で複雑な諸相についてはぜひ本書を実際に繙いていただくこととして、ここでは本書の補助線としてひとつだけ書き添えておきたい。すなわち、古典とは、本書では扱われなかった20世紀後半の、まさに、歴史的前衛それ自体が「古典」となった時代の芸術にとっても無視できぬ存在であったということだ。1970年代以降に「秩序への回帰」の研究が美術史学上で盛んになされるようになったことは、「大きな物語の終焉」とともに芸術家たちが再び過去へと、ただし、パロディやアプロプリエーションという仕方で幾分アイロニカルな眼差しをむけるようになった現象と、ある意味では文脈を共有していたのではなかっただろうか。前衛と古典の関係についていま改めて問うことは、その問いを発することができるようになったわれわれ自身の歴史的条件を自覚する機会でもあるはずだ。つまり、芸術とその研究とが歴史的に交差するという現象が、さらなる問題として控えているように思われるのである。

(池野絢子)

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2021年6月30日 発行