単著

酒井健

ロマネスクとは何か 石とぶどうの精神史

筑摩書房
2020年10月

はざま〉の美学への誘い

追憶のなかで石は生き続けている。ロマネスク時代の人々が石造りの教会堂のなかでどれほど強くつながりを求めていたか、本書で私は右に左に揺れ動きながら、この一点に向けて話を進めた。

著者がこう語るように、本書はロマネスクを、異質なものとのつながり–––––とりわけキリスト教と異教とのつながり–––––から見ている。ところでこの「つながり」は、フランス語にすれば« lien »になるだろうが、周知のように、これはただ言祝がれる「絆」のみを意味するものではない。「わたしはあなたに天国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる」とイエスがペトロに告げるとき、そこにはすでに、制度的含意、制約の含意がある。

ロマネスクは、キリスト教のこうした制度的束縛から逃れ出ようとするものであった。ロマネスク時代の人々は、異教の神々や自然界の霊力とのつながりを、自由に、陽気に、ときに不道徳なまでに、希求した。かれらはまさに、「間」を生きた人々であった。

頁を繰りながらバタイユが、異質なものとのつながりを探し求めたこの思想家が、ふと水先案内人のように現れる。何かと制約の多いこの冬、来るべき春に思いを馳せながら、繙きたい一冊である。

(大岩可南)

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2021年3月7日 発行