翻訳
ペルシア人の手紙
講談社
2020年4月
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思想家モンテスキューの文名を、ヨーロッパ中に轟かせたデビュー作の新訳。一六〇通に及ぶフィクションの書簡集を通して、圧倒的な博識に裏打ちされた文明批評の精神が、遺憾なく発揮される。
時は、一八世紀初頭──。ルイ一四世の崩御をきっかけとして、混迷と動乱の予感を深めるパリに、二人のペルシア人の主人公、ユズベクとリカが到着する。
この世界最大の都市には、いまだ経済的自由を謳歌する空気が溢れかえっていた。ところが、二人の「外国人」のまなざしを通じて、そんなパリの闊達な習俗は、徐々に別の顔をあらわにしていく。金融と株価の変動に沸くエネルギッシュな商業空間が、人間の身体と生活様式を拘束するペルシアのハーレム空間と、いつしか鏡像のような関係を取り結びはじめるのだ。
疫病、飢饉、内戦、そして恐慌へ──。作品の随所に散りばめられた不穏な史実と寓話の数々が、大都市パリのただなかに、カタストロフィーの予兆を増幅させていく。
他方、主人公ユズベクが母国に残してきたハーレムでも、常態化する監視を前にして、女たちの怒りが頂点に達する。クライマックスにおいて、彼女たちが次々に引き起こす命がけの反乱は、まさに圧巻。
(田口卓臣)