翻訳
自然 コレージュ・ド・フランス講義ノート
みすず書房
2020年5月
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本書はモーリス・メルロ=ポンティ(1908-1961)の1956-1960年のコレージュ・ド・フランス講義の講義ノートの翻訳である。
メルロ=ポンティが晩年に「野生の存在」の存在論を構想していたことはよく知られている。この「野生の存在」は、西洋の哲学と科学が隠蔽してきた、存在論的な地盤のことであるが、しかしメルロ=ポンティはそれを科学以前の思弁に委ねたわけではない。むしろ、現代物理学、動物行動学、進化論、精神分析などの成果を読み直しながら、近代自然科学の認識の枠組みではとらえられない自然をとらえようとしている。
とりわけ本書では、後期メルロ=ポンティに大きな影響を与えたと思われるホワイトヘッドについての解釈や、ベルクソンの『創造的進化』への言及と進化論への批判、そして晩年の「肉」の概念の着想を与えたシルダーやメラニー・クラインについての考察など、未完に終わった彼の哲学の進もうとした方向を見るのに適した素描が数多く見出される。
そして、物質-生命-人間、自然-人間-神の連関を問いながら、存在と無の対立を回避する「差異」の概念から「特異性」による「次元」の展開の存在論が展望される。それはどこかで、シモンドンやドゥルーズとも共鳴する問題系を思わせよう。後期メルロ=ポンティの思想を理解する上で必携の書物である。
(加國尚志)