舞踏という何か Something Called Butoh
舞踏は今、転換点を迎えている。2017年度に開館20周年を迎えた新国立劇場が初めて舞踏公演を主催し、東京都が主催する五輪関連の文化事業でも舞踏が盛んに取り上げられるなど、かつてアングラと呼ばれたこの身体芸術に向けられる眼差しは、近年明確に変化している。土方巽の『禁色』から60年余、草創期を知る舞踏家が減りつつある一方で、世界に散った種子が各地で色とりどりの花を咲かせている。
NPO法人ダンスアーカイヴ構想では、このような舞踏の現況把握を目指して、2017年度から3ヵ年にわたり国内外の実践者を対象にアンケート調査を行った。本書は、その成果報告書と位置付けられる。
プロアマ問わず幅広く協力を募ったアンケートには、50ヵ国485名から回答が寄せられた。豊富な図表を交えた調査結果の解説に加え、国内外114名から集まった2019年度分の回答と写真を完全掲載。さらに、2名の舞踏研究者によるコメントと、国外に拠点を置く日本人舞踏家4名による寄稿「舞踏ディアスポラ」、舞踏に学びながらその枠を超えて活躍する振付家7名による寄稿「精神のリレー2019」を収録した。
多種多様な言葉はいずれも熱量に溢れており、特定の個人や団体に注目するだけでは見えてこなかった「舞踏という何か」の現在形を浮き彫りにする。そしてカラフルな写真やポップなイラストの数々は、これまでの舞踏のイメージを一新するに違いない。
多声的なアーカイヴともいえる本書が、舞踏のみならず身体芸術の記録と継承をめぐる議論に一石を投じるものとなることを願っている。
(呉宮百合香)