22世紀の荒川修作+マドリン・ギンズ 天命反転する経験と身体
本書は、関西大学東西学術研究所・身体論研究班で進めてきた荒川修作+マドリン・ギンズ(以下A+G)研究の第一期(2016〜18年度)の研究報告書である。ただし、大学研究機関の研究報告書と聞いてイメージしそうな堅苦しいものではなく、幅広い読者層に開かれた書籍になるよう配慮した。本書には研究班メンバーの三村尚彦、稲垣諭、岡村心平、染谷昌義、村川治彦の研究論文が収録されており、A+Gの思想と作品を身体の経験の問題として捉える新しい研究の展開が示されている(第2部「22世紀の身体論」)。が、それだけでなく、ニューヨークのガゴシアン・ギャラリーで2019年に開催された荒川修作展や、イギリスのダンスカンパニー「ネオン・ダンス」がA+Gの思想に触発されて制作した舞台作品《パズル・クリーチャー》(2018年初演)など、A+Gに関連する近年のアート・プロジェクトを包括的に紹介した(第3部「オンゴーイング・荒川+ギンズ」)。また、研究班メンバーの小室弘毅が三鷹天命反転住宅で実施してきたワークショップの紹介や、三鷹天命反転住宅と志段味循環型モデル住宅の住民による座談会など、A+Gが設計した住居で実際に生活/滞在する経験を紹介する論考や記事も収録した(第1部「天命反転住宅の経験」)。他にもギンズが荒川の死後書き進めていた未公開の遺稿「ALIVE FOREVER, NOT IF, BUT WHEN」の紹介記事(門林岳史)を収録するなど、これまで日本のメディアにおいては荒川修作の言動ばかりが注目されがちだったところ、マドリン・ギンズが担った役割に注目している点も本書の特色である。私たちの研究活動は現在も継続中であり、本書の刊行をきっかけに多くの人がA+Gに関心をもち、研究の輪に加わってくれることを期待している。
(門林岳史)