トピックス

シンポジウム 「夢みる力──ロシア文化における宇宙と彼方」 企画展「夢みる力──未来への飛翔 ロシア現代アートの世界」 関連イベント

報告:鴻野わか菜

日時:2019年10月20日(日)14:00~16:00
場所:市原湖畔美術館
登壇者: 沼野充義(ロシア東欧文化/東京大学教授) 高橋健一郎(ロシア音楽/札幌大学教授)
モデレーター:鴻野わか菜(本展ゲストキュレーター/早稲田大学教授)


本シンポジウムは、ロシア文学、思想、美術、音楽、オペラなど様々なジャンルにおいて「ロシア文化がいかに宇宙的なものを求めてきたか」をテーマとし、展覧会の背景であるロシア文化における宇宙の探求の系譜を探るために3つの講演が行われた。

沼野充義「ロシア文化における宇宙」では、ロシア文化における宇宙という主題が、ニコライ・フョードロフ、コンスタンチン・ツィオルコフスキーらのロシア宇宙主義、フョードル・チュッチェフの詩、アレクサンドル・ボグダーノフのSF小説、ウラジーミル・タトリンの《第三インターナショナル記念碑》やニコライ・レーリヒの絵画など幅広い視点から分析された。また、冷戦期のソ連の宇宙開発の背景には、宇宙を追求する哲学、文学、美術などの文化的背景があったことが指摘された。〔この講演で扱われたロシア文化における宇宙のイメージについては、沼野充義『ユートピア文学論―徹夜の塊』(作品社、2003年)等の文献にも詳しい。〕

????????????? ――ロシア文化における宇宙と彼方」 沼野充義氏講演 写真:市原湖畔美術館提供.JPG

高橋健一郎「ロシア音楽における宇宙」では、ロシア・アヴァンギャルドの宇宙論的哲学の音楽における展開について、ジャンルを越境した視点から興味深い解説がなされた。アレクサンドル・スクリャービンの〈神智学的宇宙〉、ミハイル・マチューシンの音楽観と未来派オペラ『太陽の征服』、宇宙の原初的カオス、四次元的空間を描こうとしたアルトゥール・ルリエ―の音楽が分析され、講演者は楽曲の部分演奏も行った。〔講演内容の一部は、高橋健一郎『ロシア・アヴァンギャルドの宇宙論的音楽論 言語・美術・音楽をつらぬく四次元思想』(水声社、2018年)を通じて知ることができる。〕

シンポジウム「夢みる力――ロシア文化における宇宙と彼方」 高橋健一郎氏講演 写真:市原湖畔美術館提供.JPG

鴻野わか菜「ロシア美術における宇宙」では、20世紀初頭のロシア象徴主義、ロシア・アヴァンギャルド、ソ連非公認芸術、現代美術における宇宙の表象の変遷、ならびに美術と文学の相関関係を取り上げた。シンポジウムに先立ち、ギャラリートークも開催された。〔ロシア現代美術における宇宙の表象については、展覧会関連文献として、『夢みる力──未来への飛翔展 ロシア現代アートの世界』が2020年1月に市原湖畔美術館から出版された。〕

また、2019年8月4日、展覧会オープニング時には、シンポジウム「ロシア現代美術と彼方──南極・宇宙・ユートピア」も開催され、本展出展作家であるアレクサンドル・ポノマリョフ、レオニート・チシコフ、アリョーナ・イワノワ=ヨハンソン、ターニャ・バダニナ、ウラジーミル・ナセトキン、本展ゲストキュレーターの鴻野わか菜、アート・ディレクター、市原湖畔美術館館長である北川フラムが登壇した。

シンポジウム「ロシア現代美術と彼方—南極・宇宙・ユートピア」(2019.8.4)写真:市原湖畔美術館提供.JPG

本シンポジウムでは、作家たちが芸術と宇宙について自説を展開し、ロシア・アヴァンギャルドやロシア宇宙主義者に捧げるインスタレーションを制作したレオニート・チシコフは、ロシア宇宙主義者ニコライ・フョードロフがロシア・アヴァンギャルドに与えた影響や詩人ヴェリミール・フレーブニコフについて述べ、「私たちは皆、輝かしい宇宙の中に先人たちに囲まれて存在しています。私がこの世から旅立つ時、私は先人たちの一部となり、新たな核となる人間を囲みます。こうして生死を超えていくことができると思います」と語った。

????? ??? ????????? ドミール》撮影:?????.jpg

「翼」や「空への階段」を主題に制作を続けるターニャ・バダニナは、「私は空を作っています。空は雲が流れる地球の上空です。神が支配する、天使たちが住む世界でもあります。もう一つの宇宙を追求することは、私たちの果てしない夢であると同時に、天地の繋がりを探し求める人類の悲しみと苦しみでもあります」と語り、ロシア・アヴァンギャルド的な幾何学模様を現代的素材で新しく展開し、宇宙や大地のリズムを表現するウラジーミル・ナセトキンは、「人は皆、果てしない宇宙です。我々アーティストも一人ひとりが果てしない宇宙です」と話した。

南極ビエンナーレのコミッショナーでもあり、極地の海の映像を使ったインスタレーションやドローイングを発表したアレクサンドル・ポノマリョフは、「芸術家はいつも無限を見ています。世界を想像して眺め、世界から発せられる音を聞いています。その音は、私たちがなくした祖国の言葉でもあります」と述べ、宇宙と海が人間の血流の中にもあることについて語った。南極を主題とする映像とドローイングを展示したアリョーナ・イワノワ=ヨハンソンは、「私は、より宇宙や自然を理解する人というのは、海をよく観察している人だと考えます。宇宙というのは宇宙と一自分の作品を通じて宇宙と自然の無限を他者に誠実に伝えることが芸術家の仕事です。宇宙を夢みること、それは夢でもあり死でもあります」と述べ、南極、海、宇宙の関係を論じた。

?????????201 9.8.4??????? ラリー・トーク 写真:市原湖畔美術館提供.JPG

なお、上記のチシコフ、バダニナ、ナセトキン、ポノマリョフの4名は、「房総里山芸術祭 いちはらアート×ミックス2020」(千葉県市原市、2020年3月20日〜5月17日開催)においても、宇宙と文明を主題とする作品を制作する予定である。

(鴻野わか菜)

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2020年2月29日 発行