バタイユと芸術 アルテラシオンの思想
本書はジョルジュ・バタイユの『ドキュマン』時代(1929-1931)の論考を中心に取り上げ、彼の「様相」の思考としての芸術論(第I部)、これと哲学との関係についての考察(第II部)、『ドキュマン』時代以降の彼の芸術論(第III部)をまとめた著作である。
副題に含まれる「アルテラシオン〔altération〕」とは「変質」のことであり、通常は悪い方向への変化を意味するものの、本書ではバタイユの思想に基づき「他なるものに変えること」という意味でこの語が用いられている。「アルテラシオン」をひとつの鍵語として、芸術論における絶えざる異質化の運動を語ろうとするのが本書の試みである。
バタイユについて美学・芸術学的側面から論じた国内の著作としてはすでに江澤健一郎の『ジョルジュ・バタイユの《不定形》の美学』(水声社、2005年)や唄邦弘の博士論文「バタイユの反視覚性――20 世紀フランスにおけるイメージの破壊と再生」(神戸大学、2013年)があるが、これらと本書との差異を考えるうえで重要となるのは第II部であろう。「様相」や「形」を論じる際にバタイユとプラトンの思想的関係は無視しえないものだが、本書ではたんなるプラトン批判とは異なるバタイユの態度がシェストフを介して論じられており読み応えがある。
欲を言えば、同じく「アルテラシオン」や「様相」を鍵語とし、バタイユを出発点に自身の思考を展開したブルガリアの哲学者ボヤン・マンチェフの著作L’altération du monde, Éditions Lignes, 2009(『世界の他化』、横田祐美子・井岡詩子訳、法政大学出版局、近刊)に絡めた議論があればなお良かったが、それは同書の翻訳の刊行後に期待すべきことかもしれない。
(横田祐美子)