編著/共著
小津安二郎大全
朝日新聞出版
2019年3月
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一般書として、小津安二郎にあまり触れたことのない読者にもわかりやすい記述を心掛けた。しかし、既存の情報をまとめなおしたわけではなく、新しい発見や分析を多数含んでいる。
国内外の映画監督や俳優、作家らによる「論考集」、関係者への「取材集」、小津が中国戦線で撮影した写真や幼少期の絵画をデジタル修復した「資料集」、これまでにない詳細な「伝記」、作品に細部から迫った「ディテール小事典」が連なる。いずれも、すでに多くのことが語られてきた小津に対して、新たに資料調査や取材を重ね、問い直そうと試みた。その結果明らかになったことも少なくない。たとえば、小津といえば脚本は第一稿からほとんど変わらないとされてきたが、撮影の過程で大きく変わることもあった。『晩春』では、当時としては先鋭的と言える、ロケでの同時録音が行われていた。このほかにも、音楽にはさほど関心がなかったとみられていた小津が、『お早よう』ではみずから黛敏郎を指名していたこともみえてきた。こうした事例について、具体的な分析がなされている。
本書を通じて読者それぞれが小津その人や作品について考えるきっかけとなれば、編者としてこれほどうれしいことはない。
(宮本明子)