東ドイツ映画 デーファと映画史
東ドイツ映画といわれて、具体的な作品名を何本挙げられるだろうか? 2016年末から2017年にかけて、「DEFA映画70周年 知られざる東ドイツ映画」と題した企画が東京、福岡、京都などで開催されたとはいえ、いまなお東ドイツ映画は日本では「知られざる」存在であろう。
本書は東ドイツ映画についての入門書である。概説の後は、具体的な作品分析を通じて、冷戦期において東西映画の交差点であった東ドイツ映画の立ち位置を浮かびあがらせる。文字どおり「瓦礫」のなかから誕生した『殺人者は我々の中にいる』、ディズニー顔負けの児童映画『小さなムックの物語』、『理由なき反抗』の東ドイツ版『ベルリン シェーンハウザーの街角』、SF映画の古典『金星ロケット発進す』、東ドイツにもヌーヴェル・ヴァーグがあったことを示す『私はウサギ』、底抜けに明るい社会主義ミュージカル『暑い夏』、インディアンに共感する西部劇『アパッチ』、サイケデリックを思わせるラヴストーリー『パウラとパウルの伝説』、ハリウッドでリメイクされたホロコースト映画『嘘つきヤコブ』、型破りな女性を描く『ソロシンガー』、建築家の挫折が東ドイツの断末魔と重なる『建築家たち』、統一に踊る東ドイツ人を風刺する『ダ、ダ、エルの近況』。東ドイツ映画は意外に面白い。本書に出てくる作品のほとんどは英語字幕付きのかたちでDVDになっており、その気になれば手の届かないものではない。本書を読まれた後で、東ドイツ映画を実際に見て、その魅力に触れていただければ幸いである。
(山本佳樹)