翻訳

オリガ・ブレニナ゠ペトロヴァ (著)、桑野隆 (翻訳)

文化空間のなかのサーカス パフォーマンスとアトラクションの人類学

白水社
2018年12月
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著者によれば、サーカスは「文化学や文学研究、哲学ではほとんど研究されていない」が、実際にはサーカス芸術においてこそ、「間メディア的であると同時に間記号論的でもある」普遍的なモデルが探求されているのである。サーカスは、文化や社会にとって、「動的バランス」の最高のモデルたりうる。またサーカスは、まさにノマドであるがゆえに国家にしばられない(ドゥルーズ、ガタリ)独特の現象や世界観を宿している。さらには、サーカスは「失われし神話を世界に取りもどすことにより、想像可能なもの、象徴的なものを再活性化し、個々人すべてにおいても、日常性そのものにおいても、奇蹟的なるものがあらわれる可能性を高めている」。

綱渡りやアクロバット、空中ブランコ、猛獣使いなどのような代表的ジャンルだけでなく、サーカス論ではほとんど取りあげられない「人間大砲」や呑みこみ芸人、手品などに多くの頁が割かれ斬新な持論が展開されていることも、本書の大きな特徴である。どうやら、著者は「奇蹟への信頼」がひいては日常生活の変革へとつながると考えているようだ。「奇蹟的なるものがもつエネルギーは、知覚のオートマティスムや、意識にこびりついた因果関係モデルから、思考を解放してくれる」のである。サーカスをとおして世界を再認識しようというわけだ。

本書では、こうした基本的立場のもとに、サーカスとのかかわりのなかで、世界のさまざまな地域や時代の文学、美術、映画、アニメーション、演劇などの具体例が次々と引かれており、その博覧強記ぶりもまた十分に楽しめるものと思われる。

(桑野隆)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年6月14日 発行