翻訳

ジェラール・マセ(著)、桑田光平(翻訳)

記憶は闇の中での狩りを好む (批評の小径)

水声社
2019年1月
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フランスのマイナー作家が1993年に書いたマイナー作品の翻訳。と言ってもドゥルーズ=ガタリがかつて語った「マイナー文学」とは何の関係もなく、語の平板な意味で「マイナー」なのであり、著者であるジェラール・マセが耳にすれば気分を悪くしてしまうかもしれないが、博覧強記と言える文学(史)的教養を小出しにしながら、写真と夢をめぐって、詩とエッセイとマクシム(箴言)を混ぜ合わせたような中間的な形式で書かれた本書は、やはりマイナーな作品としか言いようがない。また、しばしば初期作品におけるシュルレアリスムからの影響が指摘されてはいるものの、その後、文体においても思想においても何らかのイスム(イズム)を標榜することも、どんなグループに属することもなく、奇妙な小品を書き続けてきたマセのことをマイナー作家と呼んだとしても、決して彼のスタイルを貶めることにはならないだろう。

「過去が作り上げられてしまうままに蘇らせる」記憶の働きをつねに主題とし、そうした記憶の創造性を自ら巧みに利用してきたマセが、本書では記憶の装置である写真と記憶の変形である夢について語っている。目下のところ、ヒエログリフの解読にとりつかれたシャンポリオンの生涯をフィクショナルに描いた『最後のエジプト人』(原書1989年、邦訳1995年、白水社)しか邦訳はなく、それも絶版となってしまって久しいが、このマイナー作家の著作は今後、水声社より続々と刊行される予定である。

(桑田光平)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年6月14日 発行