ファッションと哲学 16人の思想家から学ぶファッション論入門
ファッションは言うまでもなく近代の産物である。確かに、服飾史は古代から続くデザインの歴史として存在しているが、その服飾とは「コスチューム」である。一方で今日語られている「ファッション」は、服の形や制作だけを問題にしているのではない。それは産業であると同時に現象、文化、記号であり、この本の編者が述べている通り、「物質文化と象徴体系」の両方を意味する。逆に言えば、コスチュームはファッションとなったことによって哲学的な思考のもとで言説化が可能となったと言えるだろう。本書がマルクスからはじまり社会学を通過して、現象学・記号論・ポストモダンと繋がっていくのは、近代の思考とファッションが絡み合って生きてきたということの証でもあるだろう。それゆえにこの本のなかでは、(物質文化と言いながらも)デザインとしてのファッションや造形性の問題はそれほど多くは語られていない。
このような観点から考えると、ファッションとは一般的にもっとも感性的な領域だ(個人の好みに左右される)と思われているのだが、ファッションを語る、あるいは(原題の)「ファッションを通して考える」ということは、徹底的に感性論からファッションを遠ざけることなのではないだろうか。つまり、「ファッションと哲学」はありえても「ファッションと美学」は成立しないのではないか、と言う問題系が浮かび上がってくる。そこに、実はファッションの批評の困難さは横たわっているかもしれない。
(平芳裕子)