ロシア構成主義 生活と造形の組織学
本書はソ連の建設と社会主義理念とともに歩んだ「ロシア構成主義」を「組織化」の概念に着目し、その思想的背景を含めて論じたものである。当時の社会運動と密接に結びついた構成主義の、とりわけデザイン分野の実践が網羅的に考察される。なお、ここでの「組織化」とは、「(1)素材や色彩などの要素を一つの造形へと組み立てること、(2)合理的かつ快適な新しい社会主義の生活を建設すること、という二つの志向」であると定義づけられている(9頁)。
いわゆる〈構成主義の実験的段階〉での、色と形という造形的要素の「組織化」が取り上げられ、第1章は始まるが、こうした基礎的理論は、その後の世代である構成主義者たちによって、生活の中へと応用されていく。第2章では、造形芸術という枠組みを超えていくこの運動の、「プロレトクリト」を始めとする理論的背景が検討される。つづく、第3章以下、住居・家具・写真・空間構成・タイポグラフィー・ポスター・映像など生活に密着した分野での構成主義の多様な試みが図版とともに紹介され、20世紀の近代デザイン、また現代にもインスピレーションを与え続けている「ロシア構成主義」の実像が鮮やかに描き出されている。
本書からあらためて気付かされたことは、1910年代の初期ロシア未来派の運動を支えた人々と、構成主義および生産主義の担い手とのあいだには、世代的な乗り越えがたい意識の隔たりがあったことだ。その相違の核心のひとつであろう「建設」の基盤となった「合理化」の問題を再考する上でも、本書は大きな手がかりをもたらしてくれるだろう。
(江村公)