シンポジウム 南極の人文学的諸問題
日時:7月30日17:00〜
場所:奴奈川キャンパス(新潟県十日町市室野576)
料金 一般¥2,000円 / 大地の芸術祭パスポート割引¥1,000 小中高生無料
予約不要
http://www.echigo-tsumari.jp/calendar/event_20180730_01
<概要>
第1回南極ビエンナーレは、2017年3月、ロシア出身のアレクサンドル・ポノマリョフをコミッショナーとして、12年の構想期間を経て実現しました。ロシア、日本、中国、ドイツ、フランス、アルゼンチン、ブラジルなど13か国の作家、研究者、建築家、ジャーナリストら77人、航海士や調理師など42人の乗組員がロシアの研究船に同乗し、12日間の航海を共にしました。
南極ビエンナーレの支柱となる理念は、"Supranationality"(超国家性、国際性)、"Interdisciplinarity"(学際性、諸学提携)、"Intercultural Exploration"(異文化探検)、"Mobilis in Mobile"(動中の動)であり、人類共通の問題を討議するための恊働の場を作ることを目的としています。
南極ビエンナーレは、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」で、日本初となる展示を行います。本シンポジウムでは、コミッショナーのアレクサンドル・ポノマリョフ、ロシアを代表する現代哲学者で、南極ビエンナーレではペンギンにレクチャーをするパフォーマンスを行ったアレクサンドル・セカツキー、南極ビエンナーレ参加作家の五十嵐靖晃、長谷川翔をはじめ、南極ビエンナーレの参加者を多数迎え、国家に属さない公共空間である南極で芸術祭を行う意義、芸術家・科学者・詩人・哲学者らの共同事業としての南極ビエンナーレの成果、芸術祭の新しい概念について問い直します。
奴奈川は、第9次、第15次南極越冬隊の調理班を務めた小堺秀男氏の出身地でもあり、今回の展示では、小堺氏が南極から持ち帰った石や靴なども作品も活用されています。シンポジウムでは、新潟、ロシア、南極の結びつき、国際的な文化交流についても検討します。
*南極ビエンナーレの展示作品<Fram2>も、奴奈川キャンパスでご鑑賞頂けます。
*現地では、7/29-9/17に「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」が開催されています。
http://www.echigo-tsumari.jp/triennale2018/
<プログラム>
司会 北川フラム・鴻野わか菜
第一部
アレクサンドル・ポノマリョフ講演 「南極ビエンナーレのヴィジョン」
アレクサンドル・セカツキー講演 「地理学で世界を見る──南極・新潟・ロシア」
第二部 フィルム「南極ビエンナーレ」上映
監督:アリョーナ・イワノワ・ヨガンソン トーク
第三部 ラウンドテーブル「南極の人文学的諸問題」
アレクサンドル・ポノマリョフ、アレクサンドル・セカツキー、北川フラム、五十嵐靖晃、 長谷川翔、 鴻野わか菜、アレクセイ・コズィリ、 アリョーナ・イワノワ・ヨガンソン
【参加者プロフィール】
北川フラム
1946年新潟県高田市(現上越市)生まれ。東京芸術大学美術学部卒後、国内外で多数の美術展、企画展、芸術祭をプロデュースしている。 地域づくりの実践として、「ファーレ立川アート計画」(1994/日本都市計画学会計画設計賞他受賞)、2000年にスタートした「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(第7回オーライ!ニッポン大賞グランプリ〔内閣総理大臣賞〕他受賞)、「水都大阪」(2009)、「にいがた水と土の芸術祭2009」「瀬戸内国際芸術祭2010、2013、2016」(海洋立国推進功労者表彰受賞)等。芸術選奨、紫綬褒章受章など国内外で多数の賞を受ける。
アレクサンドル・ポノマリョフ
1957年ドニェプロペトロフスク生まれ。第1回南極ビエンナーレ・コミッショナー。1973年オリョール美術学校卒業、1979年オデッサ工科海洋大学卒業。大学卒業後、航海士として数年を海の上で過ごすが、80年代初頭にアーティストとしての活動を開始した。2007年、第52回ヴェネツィア・ビエンナーレロシア代表を務める。2009、2015、2017年のヴェネツィア・ビエンナーレ、2012、2014年のヴェネツィア建築ビエンナーレ等に参加。2016年瀬戸内国際芸術祭で日本で初めて作品を発表した。
アレクサンドル・セカツキー
1958年ミンスク生まれ。第1回南極ビエンナーレ参加研究者。レニングラード大学大学院修了。ペテルブルク大学哲学学部准教授。現代ロシアを代表する哲学者として多数の著書を出版し、2010年からはテレビのパーソナリティも務める。アンドレイ・ベールイ賞、ゴーゴリ文学賞等、受賞歴多数。南極ではペンギンにレクチャーをするプロジェクトを実施した。
アレクセイ・コズィリ
1967年モスクワ生まれ。第1回南極ビエンナーレ・オーガナイザー。建築家。モスクワ建築大学卒業。2006年にアレクセイ・コズィリ建築事務所を開設。2008年にはヴィンザヴォート(モスクワ)に建築ギャラリーTSEV Vを開設。実験的な住宅、オブジェ、パヴィリオンを制作。
アリョーナ・イワノワ・ヨガンソン
1976年エリスタ生まれ。第1回南極ビエンナーレ・アートディレクター。アーティスト。平面制作、映画、装丁など多分野で活躍。□個展:Krokin Gallery モスクワ[2016]□グループ展:XL Gallery モスクワ[2013] Zverevsky Center of Contemporary Artモスクワ[2012]
五十嵐靖晃
1978年千葉生まれ。第1回南極ビエンナーレ参加アーティスト。東京藝術大学大学院修了。人々との協働を通じて、景色をつくり変えるような表現活動を各地で展開。代表的なプロジェクトとして、福岡県太宰府天満宮での『くすかき』(2010〜)の他、漁師らと共に漁網を空に向かって編み上げ土地の風景をつかまえる『そらあみ』(瀬戸内国際芸術祭2013・2016)。東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた東京都による文化プログラム『TURN』。
長谷川翔
1987年群馬生まれ。第1回南極ビエンナーレ参加アーティスト。武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。ハンブルク美術大学大学院修了。□個展: Schierke Seinecke Gallery フランクフルト [2018] □グループ展: Abschlussausstellung des Klaus Kröger Atelier Stipendiums ハンブルク[2017] □コレクション: Art Foundation Christa and Nikolaus Schües [2016] 南極では自作のスケート靴を使ってスケートを滑り、そこから発電を行い、その電力を利用して風景画を描くプロジェクトを実施。
鴻野わか菜
1973年神奈川生まれ。第1回南極ビエンナーレ参加研究者。ロシア文化研究。東京外国語大学卒業。東京大学大学院、ロシア人文大学大学院修了。早稲田大学教育・総合科学学術院准教授。共著に『イリヤ・カバコフ世界図鑑──絵本と原画』(企画監修:神奈川県立近代美術館)、訳書にイリヤ&エミリア・カバコフ『プロジェクト宮殿』(共訳、国書刊行会)、レオニート・チシコフ『かぜをひいたおつきさま』(徳間書店)他。
2017年3月、ロシアのアーティスト、アレクサンドル・ポノマリョフ(1957年生)をコミッショナーに、12年の準備期間を経て、第1回南極ビエンナーレの旅が実現した。
世界各国のアーティスト、研究者、ジャーナリスト、船員ら約100人がロシアの研究船に乗り、12日間に亘って共に南極大陸、南極圏を航海。アーティストは南極の岸辺、島、南極海でアートプロジェクトを実施し、船内では研究者や作家がレクチャー、ディスカッション、朗読会、上映会を催した。ロシア美術を研究している縁で、私も思いがけずその航海に参加し、現場に立ち会うことになった。
環境保全のため、南極で展示した作品は、記録をとった後に回収され、白い大陸にはもう存在していない。作品の唯一の観客となったのは、ビエンナーレ参加者と、好奇心旺盛で作品を設置するやいなや駆け寄ってきたペンギン達だけだ。だが、南極ビエンナーレの本質は、航海自体にあるのではなく、南極ビエンナーレの経験を世界に伝え続け、様々な境界を越えて対話の波を広げていくことにある。
だからこそ、展覧会やシンポジウムの開催は重要であり、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018」で南極ビエンナーレの展示とシンポジウム開催の機会を頂いたことは、大変貴重な機会となった。
展示とシンポジウムの会場となったのは、廃校となった旧奴奈川小学校をアート、スポーツ、食などの多様な文化の発信地として生まれ変わらせた「奴奈川キャンパス」である。シンポジウムの導入部では、展示場所決定後に分かったまったくの偶然だったが、旧奴奈川小学校のある室野は、民間人として初めて南極越冬隊に参加した料理人の小堺秀雄氏の故郷であり、学校の倉庫には、小堺氏が寄贈した南極越冬隊の靴や手袋が残され、展示に使用されたというエピソード等を司会の鴻野が紹介した。
「大地の芸術祭」ディレクターで、南極ビエンナーレ理事である北川フラム氏からは、南極ビエンナーレの今回の展示のコンセプトである「フラム号」と南極探検の歴史、南極ビエンナーレの意義についての詳細な解説があった。
第一部では、ポノマリョフ氏が、「各国のアーティスト、哲学者、作家、研究者を集めて、皆で一つの船に乗り込み、国境のない南極で共に旅をして、対話を重ねる。それは、環境問題や宇宙開発などの人類共通の問題について、国、民族、専門性を越えて多様な人々が話し合い、共に解決する仕組みを作るための航海だ。その中心にいるのはアーティスト達だ。なぜならアーティストは、世界を直感的に俯瞰することができるから」と、南極ビエンナーレの理念を語った。
また、哲学者アレクサンドル・セカツキー氏(国立ペテルブルク大学)は、芸術的な直感に満ちた美術がエコロジーに果たしうる役割、「精神的なゴミ」を抱えた現代人にとって南極と現代美術が持ちうるセラピー的な効果、日本文化における観照の美学、南極と日本を巡る空間論について語った。
アリョーナ・イワノワ・ヨガンソンが「大地の芸術祭」のために編集した南極ビエンナーレの映画を鑑賞した第二部を経て、第三部のラウンドテーブルでは、南極ビエンナーレの航海の参加者である日本のアーティストやロシアの建築家が、南極ビエンナーレでの体験を述べあった。
シンポジウムの記録集は作成されていないが、「大地の芸術祭」での展示や南極ビエンナーレの航海については以下の文献があるほか、鴻野とフランスの南極研究者ジャン・ポメルーは、南極ビエンナーレについての英文論集を編集中であり、ポノマリョフ、セカツキーをはじめとする参加者の論考が、美術研究者ジョン・ボウルトらの論文と共に掲載される予定である。また、2019年夏から秋にかけて、千葉県で、ポノマリョフの作品や南極ビエンナーレの映像等を含む大規模なロシア現代美術展と催しが開催される。後日、メーリングリスト等で情報をお知らせできれば幸いである。
<参考資料>
・ Antarctic Biennale Website
http://www.antarcticbiennale.com/
・ 「南極ビエンナーレ フラム号2」大地の芸術祭の里
http://www.echigo-tsumari.jp/artwork/antarctic_biennale_fram2
・鴻野「舞台は南極。 「第1回南極ビエンナーレ」で問い直す人類と芸術の関わり」Web版美術手帖
https://bijutsutecho.com/magazine/insight/3551
・鴻野「南極ビエンナーレの旅」『ゲンロンβ31』(電子雑誌)
(鴻野わか菜)