シンポジウム 芸術と政治社会のダイナミズム
芸術と政治の結びつきはどのようなダイナミズムを起こしうるのか? このようなストレートな問いから出発した本シンポジウムにおいては、アメリカおよび英国で教鞭をとる二人の美術史家が提示した、対極的とも言えるようなアプローチにより、芸術と政治が持ちうる関係の多彩さが描き出された。
ニューヨーク市立大学のロミー・ゴラン教授による発表「20世紀の芸術と政治:四つのエピソード」の、とりわけ前半部では、米国で活躍した日本人写真家の角南壮一が、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で1959年に撮影した一枚の写真に焦点が合わせられる。モネの睡蓮の前に佇む女性の後ろ姿を写したこの写真は、一見したところ政治とは無縁である。しかしゴラン教授の手腕により、この写真が撮られる数ヶ月前にMoMAで起こったモネの作品の焼失事件、さらにはヒッチコック『めまい』などと結び付けられることにより、「災厄のイメージ」としての顔があぶり出されるのだ。
これに対し、英国・コートールド美術史研究所のサラ・ウィルソン教授が取り上げた、アルゼンチン出身の写真家マルチェッロ・ブロードスキーの作品では、政治的な題材が直接的に扱われていた。ブロードスキーのシリーズ「思想の炎」は、1968年前後の世界各地での政治闘争のイメージを再解釈して提示したものである。2018年は、1968年の五月革命から50年の節目であったこともあり、ブロードスキーのようなアーティストによる想起の試みや、当時を振り返る展示の企画が各地で見られたことは、記憶に新しい。その後フランスで勃発し現在も進行中の「黄色いチョッキ」運動は、そうした試みとも決して無縁ではないだろう。芸術が政治に直接的に関与する可能性について考えさせられた。
本シンポジウムは、現在は神戸大学で教鞭をとる松井裕美氏の尽力により実現したものである。コーディネーターを務められた山本友紀と磯谷有亮の両氏にも、あわせて感謝を申し上げる。
(橋本一径)
芸術と政治社会のダイナミズム
Art & Socio-Political Dynamism
主催:早稲田大学総合人文科学研究センター研究部門「イメージ文化史」
日時:2018年9月22日(火)14:00-17:00
場所:早稲田大学戸山キャンパス 33号館第1会議室
講演者:ロミー・ゴラン(ニューヨーク市立大学)
「20世紀の芸術と政治:四つのエピソード」
Romy Golan (The Graduate Center of the City University of New York)
Art and Politics in the 20th century: Four Episodes
サラ・ウィルソン(コートールド美術史研究所)
「マルチェッロ・ブロードスキー:思想の炎」
Sarah Wilson (The Courtauld Institute of Art)
Marcelo Brodksky: the Fire of Ideas
司 会:松井裕美(名古屋大学・特任助教)
コメンテーター:橋本一径(早稲田大学・教授)
(肩書は当時)