翻訳
ドローンの哲学 遠隔テクノロジーと〈無人化〉する戦争
明石書店
2018年7月
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本書は、フランスの科学哲学者G・シャマユーの主著の一つである。ドローンといってもアメリカを中心とする軍用無人航空機のことである。戦争技術はもとより、無人機による遠隔的な殺害がもたらす心理的・倫理的問題から法律、政治哲学まで幅広い射程で遠隔技術の軍事利用が孕むさまざまな問題をえぐり出すものである。G・カンギレム、D・ルクールらフランス科学哲学の系譜に名を連ねる著者は、人体実験の正当化をめぐる医学の言説史を追う学位論文『卑しい身体』(邦題は『人体実験の哲学』(明石書店、2018年))や、人間を「狩る」対象とする歴史を辿る『人間狩り』(未邦訳)を通じて、「権力」が「身体」をどのように追跡し、利用し、殺傷するか、その系譜を綿密にたどりなおしてきた。その現代版と言えるドローンについて、2000年代以降にIT技術やAIの進展とともに進行する「軍事における革命」における産・官・軍・学の言説に目配せしながら、その本質に迫る著作である。来るべき、いや、すでに来ている「ドローンのある世界」を楽天的に肯定するのでも悲観的に断罪するのでもなく、今ここにある技術についての哲学的な思考への手ほどきともなるだろう。
(渡名喜庸哲)