翻訳
レヴィナス著作集 3 エロス・文学・哲学
法政大学出版局
2018年7月
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レヴィナスの未公刊資料を集めた著作集の第三弾。第二次世界大戦における捕虜収容所での拘留期に構想し未刊のままにとどまった二つの小説「エロス」と「ヴェプラー家の奥方」の草稿を中心に、同じく未刊の「エロス」をめぐる哲学雑記、また哲学を志す前の青年レヴィナスがロシア語で綴っていた詩や散文が収められている。小説は、決定稿にはほど遠く、欠落や飛躍も多いが、レヴィナス本人と思しき通訳兵が戦争における潰走や収容において体感した「秩序」の「瓦解」のテーマが基調となり、一つの話としてなんとか読める。ただし、『実存から実存者へ』で提示される「イリヤ」、『時間と他なるもの』から『全体性と無限』へと謎めいた仕方で展開される「エロス」など、同時期の哲学著作で提示された問題系と交差するだけに、レヴィナスの思想の形成と広がりを理解するには欠かせない資料と言える。編者ジャン=リュック・ナンシーが序文で指摘するように、20世紀のフランス哲学における「哲学」と「文学」の関係を改めて考えるためにも興味深いだろう。
(渡名喜庸哲)