翻訳

シモーヌ・ヴェイユ(著)、 今村純子(編訳)

シモーヌ・ヴェイユ アンソロジー

河出書房新社
2018年7月
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本書は、シモーヌ・ヴェイユがアランの学生であった一六歳のときからロンドンで客死する三四歳のときまでに書き記した論考のうち、最重要の七篇を収めたアンソロジーである。この七篇に共通するのは、「見ること」が「創ること」であり、「沈黙」が「声」であり、「距離」が「出会い」であるという、徹底的な受動性にこそ積極的な能動性を見て取るヴェイユの思想を貫く幹である。そこに通底するのは、主体のもっとも活き活きとした感情である美的感情である。美の諸相は、童話や叙事詩ないし実在の人物という具体物を通しての考察から(「『グリム童話』における六羽の白鳥の物語」、「美と善」、「『イーリアス』、あるいは力の詩篇」)、ヴェイユ自身の工場生活という具体的経験を通しての考察へと至り(「工場生活の経験」、「奴隷的でない労働の第一条件」)、さらに、ヨーロッパを蹂躙する戦時状況を通した考察へと引き継がれる(「人格と聖なるもの」)。

シモーヌ・ヴェイユの言葉は、真に生きようとする人々を震わせ、振り向かせ、ある一定の方向に向かわせる力を有している。その触発の力とは、彼女が、「解決不可能なことを解決不可能なままに」、ただひたすらに見つめ、表現していることによる。その批評性は、原作に心動かされた映画監督が、原作を翻案し、自らの作品に結実させる姿に類似している。

(今村純子)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年2月17日 発行