まなざしの装置 ファッションと近代アメリカ
普段私たちが着ている衣服やデパートのディスプレイ、世界中の注目を浴びるコレクション、毎年話題に事欠かないメトロポリタン美術館の服飾部門の展覧会およびMETガラ、日本でも人気を集めるファッションの展覧会……ファッションは常に私たちの生活に密着しながら、「見られる」ものとして機能している。そして現代においては男性のファッションも注目されるが、これまでファッションとは「女性的なもの」として扱われてきた。
それはなぜだろうか。女性とファッションはいかにして結び付けられ、見る/見られる対象として成立してきたのだろうか?
本書は、ファッション研究の中心であり続けるフランスではなくアメリカのメディアに着目し、産業革命から現代までの歴史を追うことによって、近代の女性像の成立と変容を明らかにしようと試みる。そこで参照するのは、雑誌や付録といったこれまで重要視されてこなかった、しかし生活者と密接に関わってきた膨大な資料だ。それらを緻密に追うことで、当時のアメリカの女性たちの置かれていた環境やファッションへの距離感が浮かび上がってくる。そこには、産業革命以降のお針子という職業の成立、「縫う」仕事を自宅で行う女性、そしてファッション雑誌の付録のパターンを使用して流行の衣服を「模る」行為など、時代の流れとともにファッションに参画していく女性たちの姿があった。当時のメディアを参照し、またデパートのディスプレイや美術館の展示という見せ方の歴史を追うことによって、女性とファッションの結び付きの変遷が明らかになる。
そして本書が最後に提示する「なぜ『ファッション』は『女性』のもとに繋ぎとめられておく必要があったのだろうか」という疑問に対し、著者は民主主義国家・アメリカの形成に着目する。ファッションと女性の結びつきを解き明かすことが、アメリカという資本主義国家のありかたをも照射するのだ。
(小山祐美子)