牡丹灯籠 (江戸怪談を読む)
『〈江戸怪談を読む〉牡丹灯籠』は、白澤社より刊行されている「江戸怪談を読む」シリーズの第五段に当たります。これ一冊で江戸から明治にかけて創作された「牡丹灯籠もの」怪談の系譜を概観できるというのが売り文句です。
横山泰子氏が第一章で本書全体の見取り図を提示していますが、そこでは山本薩夫監督の映画や波津彬子の少女マンガなども含めて、現代まで連なる翻案作品の流れが簡潔にまとめられています。近世の日本で熱狂的に受容された「牡丹灯籠」の原話は中国明代の怪異小説集『剪燈新話』所収の「牡丹灯記」なのですが、この小説集が東アジアの各地に伝わっていることもあり、そこでは時代や地域を越境する「牡丹灯籠」に対して怪談文化史や比較文学を念頭に置いた領域横断的なアプローチが重要となることが示唆されています。
今日までよく知られているのは、日本で最初期の口演速記本として刊行され言文一致運動に多大な影響を与えた三遊亭円朝作『怪談牡丹燈籠』です。本書には、円朝以前の翻案作品の系譜に関する記述として、門脇大氏による浅井了意『伽婢子』所収の「牡丹灯籠」の現代語訳、広坂朋信氏による百物語系「牡丹灯籠」の解説、さらには怪奇とエロスを帯びた「骨女」の絵画表現に着目し、鳥山石燕からアニメ『地獄少女』に至る翻案の流れを指摘した今井秀和氏の論考が収められています。最後に拙稿は、円朝作における怪談パートの全文解説と、寄席の現場で惹き起こされていた幽霊の恐怖についての分析になります。
(斎藤喬)