ソーシャリー・エンゲイジド・アートの系譜・理論・実践 芸術の社会的転回をめぐって
本書は、その表題が示す通り、ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)の系譜、理論、実践を主題とする論文集である。日本語ならば「社会関与の芸術」とでもなろうこの芸術ジャンル(?)は、とりわけ2011年の東日本大震災以来、日本でも少なからぬ関心を集めるようになった。しかし従来の理解において、SEAは「参加型アート」や「リレーショナル・アート」といった類似する言葉としばしば一緒くたにされ、大きな誤解や批判にさらされる傾向にあったことも事実である。
そうしたなか、本書は米国におけるフェミニズム運動やコミュニティ・アート運動といったSEAの隠れた「系譜」に光を当て、従来「関係性の美学」(ニコラ・ブリオー)というヨーロッパ発の言説に引き寄せられる傾向にあったSEAの「理論」的なアップデートを試みる。また、高山明や藤井光といった同時代のすぐれた作家の「実践」を通じて、芸術が「社会に関わる(socially engaged)」ということの含意を鋭く問い詰める。
SEAをめぐる日本語での議論がいまだ十分でないなか、トム・フィンケルパール、グラント・ケスターといった、この分野の代表的な論者の翻訳が収められていることも重要だ。他方、そもそもSEAやその周辺の動向に対して懐疑的な読者には、カリィ・コンテ、ジャスティン・ジェスティ、そして筆者の論文が──それぞれ相補いながら──昨今の「芸術と社会」をめぐる議論に対し、一定の批判的な見通しを提供してくれるはずである。
(星野太)