翻訳
新訳ベケット戯曲全集1 ゴドーを待ちながら/エンドゲーム
白水社
2018年3月
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本書は、『新訳ベケット戯曲全集』(全4巻)の第1巻である。日本の現代演劇に多大な影響を与えた『ゴドーを待ちながら』は、安堂信也による初訳が1956年に白水社から刊行され、その後、安堂と高橋康也の共訳により『ベケット戯曲全集』第1巻に収録され、67年に白水社から刊行された。約半世紀前のことだ。
かつては不条理演劇という旗印が独り歩きし、ベケット作品には、難解、わかりにくい、といったイメージがつきまとってきた。しかしベケットの劇は決して抽象的で小難しいものではなく、むしろリアルな身体感覚をベースにした情感豊かな台詞が多く、笑いのエッセンスも散りばめられている。
新訳では、作品が本来持っているそうした魅力が伝わり、かつ、二十一世紀を生きる私たちの身体や言語の感覚に馴染むよう、日常的な現代口語を用いてわかりやすく(格調低く)訳した。特に、会話と所作のリズムと二人のコンビネーションを大事にした。『ゴドー』の二人の会話は、基本的にボケとツッコミで構成されている。生き生きとした掛け合いを表現すべく訳文を簡潔にしたため、上演時間も短縮されると思う。訳注も最小限にとどめ、背景となる知識や情報に頼らない、せりふとト書きだけからなるすっきりしたテクストにした。上演や制作の現場でも、気軽に使っていただきたいと思う。
(岡室美奈子)