マン・レイ 軽さの方程式
「マン・レイ」という名前を用いた人物について、どのようなことが知られているだろうか。シュルレアリストとして、絵画、写真、彫刻、映画と様々な作品を発表した多作の芸術家としてか、あるいは肖像写真やファッション写真など、商業写真の分野で成功した写真家としての側面か。おそらく一般的には後者だ。彼が撮影した20世紀の著名人たちの肖像写真について、マン・レイの名前を知らずとも目にしたことがあるという人が世界中にいるだろう。
マン・レイは作品の知名度に拘わらず、その活動の一部にしか注目されず研究が遅れている作家だ。それどころか、学術研究の俎上に乗ること自体認められなかったことすらある。この状況を様々なアプローチから打破するのが本書だ。著者はマン・レイの知名度の高さと学術的な認識の乖離に着目し、どうして研究がここまで行われてこなかったのか、なぜそのように軽んじられてきたのか、その原因を明らかにしながら、マン・レイを美術史上に位置づけることを試みている。
シュルレアリスムやモード写真といったこれまで語られてきたマン・レイの断片的な一部分だけではなく、本書は横断的に緻密な調査と考察を行う。その活動を見つめなおすことによって、シュルレアリスム、モード、モダニズム…20世紀の様々な事柄について当時の動向を知ることにつながるのではないか。本書は、あまりにも幅広く活動した一人の芸術家の姿を追うことで明らかになる様々な可能性を提示している。
(小山祐美子)