国際シンポジウム 日本のスクリーン・プラクティス再考:視覚文化史における写し絵・錦影絵・幻燈文化
日時:2017年12月17日 14:00-18:00
会場:早稲田大学26号館大隈記念タワー 地下多目的講義室
主催:早稲田大学演劇映像学連携研究拠点
共催:早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系
第1部
開会のことば・趣旨説明 14:00-14:10
共同研究報告「視覚文化史における幻燈の位置」14:10-
・大久保遼(愛知大学) 向後恵里子(明星大学) 遠藤みゆき(東京都写真美術館) 上田学(神戸学院大学)
基調報告1「日本の幻燈文化の再検討」14:30-14:50
・草原真知子(早稲田大学)
基調報告2「Screenology: Toward a Media Archaeology of the Projected Image」14:55-15:40
・エルキ・フータモ(UCLA)
第2部
写し絵「だるま夜話」「葛の葉」上演と解説 16:00-16:25
・山形文雄(みんわ座代表) 劇団みんわ座
錦影絵「花輪車」上演と解説 16:25-16:50
・池田光恵(大阪芸術大学) 錦影絵池田組
パネルディスカッション「日本のスクリーン・プラクティス再考」
質疑応答・閉会のことば 17:50-18:00
2017年12月17日、早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系と早稲田大学演劇映像学連携研究拠点との共催で、国際シンポジウム「日本のスクリーン・プラクティス再考:視覚文化史における写し絵・錦影絵・幻燈文化」が開催された。
前半の第1部では、開催趣旨に続き、演劇博物館所蔵の幻燈スライドを活用した共同研究の成果が報告された。はじめに大久保は、2年間の共同研究を概括するとともに、近年の映像研究において、エルキ・フータモ氏の提唱するスクリーン学(Screenology)や映画史家チャールズ・マッサーのスクリーン・プラクティスの拡張など、新しい歴史記述の枠組みが提唱されていることを紹介した。次に向後恵里子氏(明星大学)の報告「戦争イメージの輻輳:複製・波及・相互参照」は、幻燈スライドに描かれた日清・日露戦争のイメージに着目し、それが雑誌の挿絵をはじめとする当時の視覚コミュニケーションの中でメディア横断的に受容されていたことを明らかにした。続いて遠藤みゆき氏(東京都写真美術館)の報告「中島待乳の幻燈製造」は、写真師・中島待乳の幻燈スライドに注目し、それが写真史だけでなく、絵師による下絵の制作や、同時代の西洋のスライドとの影響関係を含む、複合的な関係性の中で捉え直されるべきことを指摘した。最後に上田学氏(神戸学院大学)の報告「浅草の映画館と幻燈文化」では、販売目録の分析を通じて、明治期に映画館の立地が浅草に集中していたことの背景要因の一つとして、幻燈の製造や販売に関わる代表的な店舗の多くが浅草に集積していた事実との関係が指摘された。
共同研究報告に続き、草原真知子氏(早稲田大学)の基調講演「日本の幻燈文化の再検討」が行われ、現在までの写し絵・錦影絵・幻燈文化の研究課題が浮き彫りにされた。数々の鮮やかな資料の紹介とともに、幻燈のイメージと引札、おもちゃ絵、双六、立ち絵、雑誌の付録、手品、見世物との影響関係や、それらを横断するトランスメディア的な性格、イメージとナラティヴが結びついた大衆文化であり、またパーソナルでモバイルな映像装置としての幻燈など、今後の研究が進展しうる多様な可能性が示された。続いてエルキ・フータモ氏(UCLA)の基調講演「Screenology: Toward a Media Archaeology of the Projected Image」では、現在準備中の400頁を超えるという大部の著作の構想が紹介された。まずフータモ氏は現在、スクリーンが日常的なプラクティスの中に位置づけられることで、その存在と歴史性が不可視化されていることに疑義を呈し、メディア考古学的な映像研究の必要性を指摘した。その上で、メディア装置と実践の関係史を、マッサーの提案を拡張する形で「Screen Practice」「Peep Practice」「Mobile Practice」「Touch Practice」の4つの視点から捉え直すことによって、独自のScreenology/スクリーン学の構想が素描された。
休憩を挟み後半の第2部では、写し絵と錦影絵の上演とパネル・ディスカッションが行われた。江戸の写し絵と上方の錦影絵は、ともに西洋から伝来したマジック・ランタンが日本の寄席文化や大衆芸能と結びついて生まれた映像文化であり、その技法や題材に多くの共通点を有しているものの、それぞれ独自の特徴や表現の形式を持つ。今回はこの2つの映像文化が同時に上演される非常に貴重な機会となった。まず池田光恵氏(大阪芸術大学)による錦影絵の解説と錦影絵池田組の活動紹介、参考上映(DVD)に続き、実際に会場で錦影絵「花輪車」が上演された。また山形文雄氏(劇団みんわ座代表)により写し絵の解説が行われた後、会場に設置されたスクリーンで劇団みんわ座による写し絵「だるま夜話」「葛の葉」の上演が行われた。
錦影絵と写し絵の上演の後、池田氏、山形氏にフータモ氏と草原氏が加わりパネル・ディスカッション「日本のスクリーン・プラクティス再考」が行われた。論点は多岐にわたるものであったが、西洋と東洋の幻燈文化の比較、映像表現とテクノロジーの関わり、日本文化における「間」や「遊び」と写し絵・錦影絵の表現の関係などが、実際に会場での投影や装置の解説を交えながら議論された。最後にフータモ氏より、写し絵や錦影絵は決して過去の失われた文化ではないこと、むしろ過去と現在と未来が現在進行形で対話する場所であることが確認された(このパネル・ディスカッションの内容については以下のURLで記録が公開されている。http://www.waseda.jp/prj-kyodo-enpaku/activity/2017_1217_kiroku.html)
シンポジウム全体を通じて、日本の幻燈文化の諸問題が国際的な研究動向の中で捉え直されるとともに、今後の研究プロジェクトの可能性や、写し絵・錦影絵の技法の継承の問題など、様々な課題が浮き彫りになった。年末の開催にも関わらず会場は満場となり、パネル・ディスカッション後の質疑も活発に行われ、盛況のうちに幕を閉じた。
なお、本シンポジウムの記録は順次、演劇映像学連携研究拠点のWebサイトで公開される予定である。http://www.waseda.jp/prj-kyodo-enpaku/activity/2017_1217.html