国際シンポジウム フランス音声詩をめぐって
日時:2018年02月22日(木) 15:00 - 19:00
場所:日仏会館 601号室
シンポジウム概要:
独特かつ興味深い発展にもかかわらず、音声詩はこれまでマイナーなジャンルとみなされてきた。本シンポジウムでは、現代フランスを中心とした音声詩を紹介し、様々な文脈から位置づけを試みる。美術史家兼キュレーターで、音の問題を様々な芸術ジャンルとの関わりにおいて考察し、実践的な活動も展開しているアンヌ=ロール・シャンボワシエ氏を招き、彼女の製作した映像を上映し、解説をしてもらう。また、フランス文学の研究者4名(マリアンヌ・シモン=及川、鈴木雅雄、福田裕大、熊木淳)が研究発表を行う。
プログラム
15 : 00-15 : 10
熊木淳 シンポジウム開催にあたって
15 : 15-16 : 15
福田裕大(近畿大学)「音声詩の前史をめぐって:サウンド・スタディーズの観点から」
鈴木雅雄(早稲田大学)「意図的に「どもる」ことは可能か──ゲラシム・ルカにおけるリズムの問題」
16 : 15-16 : 20 休憩
16 : 20-17 : 20
マリアンヌ・シモン=及川(東京大学)「日仏の音声詩:ピエール・ガルニエと新国誠一の共同作品を中心に」
熊木淳(尚美学園大学)「ページ、朗読、パフォーマンス──ベルナール・ハイツィックの行動詩とクリスチャン・プリジャンの『書かれたものの声』」
17 : 20-17 : 30 休憩
17 : 30-18 : 00
アンヌ=ロール・シャンボワシエ(美術史家・キュレーター)
『ベルナール・ハイツィック、アクションとなる詩』をめぐって
18 : 00-19 : 00
『ベルナール・ハイツィック・アクションになる詩』(ドキュメンタリー/2014年/55分)
【製作】アンヌ=ロール・シャンボワシエ、ジル・クデール、フィリップ・フランク
※フランス語、通訳・字幕なし
19 : 00 閉会
【司会】進藤久乃(松山大学)
1950年代以降フランスで独自の発展を遂げた音声詩は、その研究が近年活発になってきているものの、日本ではこれまであまり紹介されることはなく、またその名前から一定の誤解をともなって認知されているようだ。
本シンポジウムは、そういった日本での受容の背景を踏まえて催された。会は前後半で構成され、前半では福田裕大、鈴木雅雄、マリアンヌ・シモン=及川、熊木淳が発表を行い、後半ではキュレーターであり前衛詩の研究者でもあるアンヌ=ロール・シャンボワシエ氏を招き、彼女が撮影した音声詩の第一人者といえるベルナール・ハイツィックについてのドキュメンタリー映画、『ベルナール・ハイツィック、行動する詩』を上映し、上映後シャンボワシエ氏のコメントを頂いた。
知られていないジャンルについていかに語るか。本シンポジウムではこの問いに対する答えとして、発表者が各々「音声詩とその外部」について語った。福田は音声詩以前の録音メディアのあり方について、鈴木は音声詩の重要なイヴェントであるストックホルム・フェスティヴァルにも参加していたゲラシム・ルカの吃りについて、シモン=及川は具体詩の詩人として知られているピエールおよびイルス・ガルニエ夫妻と彼らとの共作もある新国誠一の音声詩的作品について、そして熊木はベルナール・ハイツィックのパフォーマンスの概念について研究発表を行った。熊木の発表は、それに続くシャンボワシエ氏の映画へのイントロダクションとしても位置付けられる。氏の映画はハイツィック自身のインタビューとともに、彼と親交のあった多くの詩人や研究者らの証言で構成され、彼自身の詩やそれが置かれている独特な文脈を照らし出すことに成功している。
その名前にもかかわらず、フランスの音声詩はただ音声によって詩を表現するだけではなくむしろ詩の音声的な側面と視覚的、つまり文字によって示される側面との関係を問い、また両者の新たな関係を構築しようとするジャンルであるといえる。この点が本シンポジウムが問題としている音声詩とそれまでの「音響詩」、つまりダダイスムやレトリスムの文脈での、もっぱら音声のみで作られた詩との大きな違いである。そのためこのジャンルは誤解をもって受け入れられることが多く、その意味でこの「音声詩とその外部」というテーマはこのような起こりうる誤解を丁寧につぶす作業であるといえるだろう。