翻訳
コレクティフ サン・タンヌ病院におけるセミネール
月曜社
2017年11月
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ジャン・ウリは、90歳をわずかに越えた2014年5月に亡くなったフランスの精神科医・思想家である。フランス中部ロワール川渓谷の町ブロワにほど近い所にあるラ・ボルド病院という精神科治療施設が彼の主な活動場所であった。彼が主唱していた「制度を使う精神療法」は、精神の不調を治療するためには、まずその基盤にある精神の疎外に対して何らかの手当をしなければならないと考える。クラブや役割交替や自由な議論といった活動によって、病院の中にある様々な制度を動かし、全体を動かし、それが患者の無意識の構造に影響を与える。「コレクティフ」とは、そうした複層的な「動き」を出現させるための場としての「人の集まり」のことである。
本書は、ウリがパリのサン・タンヌ病院で1984年から85年の間に行った10回のセミネールの記録である。ウリはよく「なぜそれをするのか考えよ」と言っていたが、その「なぜ」がここでは様々な思想家を参照しつつ語られている。とりわけ「対象a」や「分析家の言説」といったジャック・ラカンの概念が、現場でどのように機能するのかが見事に語られている。ラカン理論の現実的な意味を知りたい人にも是非読んでもらいたい書物である。
(多賀茂)