翻訳

須藤健太郎(編訳)

エリー・フォール(著)

エリー・フォール映画論集 1920-1937

ソリレス書店
2018年2月
複数名による共(編/訳)著の場合、会員の方のお名前にアイコン()を表示しています。人数が多い場合には会員の方のお名前のみ記し、「(ほか)」と示します。ご了承ください。

高名な美術史家による映画論を集めたものだ。映画の生誕に立ち会った世代による、熱狂的な映画論である。その熱量に、その興奮に、その感性に触れるのはいまもって貴重と感じる。

私を本書の編訳に駆り立てた問題意識については、訳者後記で思う存分書いたので繰り返すまい。だが、この場を借りて少しだけ個人的な述懐を述べるなら、これはフランスに何年か留学した日々の思い出の結晶なのだ。エリー・フォールを読むことは、単なる映画史のお勉強を超えて、現在の問題につながる。それはフランスに滞在して初めて学んだことだった。交換留学先のパリ第10大学で当時教鞭を執っていたカトリーヌ・マラブーは、「シネプラスティック」という造語に関心を寄せていた。博士課程に進学して在籍したパリ第3大学では、ジャック・オーモンやフィリップ・デュボワがおりにふれフォールに触れていた。そして日本に帰国して翻訳に精を出しているさなか、岡田温司著『映画は絵画のように──静止・運動・時間』(岩波書店)が刊行された。そこではエリー・フォールの映画論が大きく紹介されていた。自分がフランスで学んだことは、きっと日本の読者も興味を持つはずだ。

本書には、壮大なヴィジョンのもとで綴られる長文の論考から、個々の作家や作品を論じた短評、そして講演録にいたるまで、彼の映画論のさまざまな魅力に触れられる文章を収録した。あえて訳者個人のお気に入りを記すなら、とかく注目を浴びがちだった論考群もおもしろいが、短いながらもきわめて密度の高い作家論や作品論が心地よい。

(須藤健太郎)

広報委員長:横山太郎
広報委員:柿並良佑、白井史人、利根川由奈、原瑠璃彦、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年6月22日 発行