単著
ひとり空間の都市論
ちくま新書
2018年1月
都市は近年、多様な人びとが集まる共生の場として語られやすい。それはまちがいではないが、同時に都市に底知れぬ孤独の穴が無数に開かれていることも忘れてはならない。
筆者は、そうした孤独な場を「ひとり空間」と呼び、『孤独のグルメ』を入口として、それがいかに作られ、また何を作り出しているのかを周到に分析していく。
住居の個室やカプセルホテル、牛丼屋のカウンターや一人カラオケの店、さらにはスマホという仮想の場など、取り上げられる場は多彩である。そのなかで筆者は、とくに日本の「ひとり空間」では金を払って提供される場合が多いことに注意を促す。筆者によれば、都市で「消費」されるそうした商品化された空間の繁茂の背後には、「よそ者」に厳しい文化的風潮と、帰るべき家をとうに失い流浪する単身者の群れの姿が透けてみえる。
それを前提に見渡せば、都市は無数の人びとがわずかな空間や自由にできる時間を求め、押し合いへし合いする場として浮かび上がる。もちろんこうした都市像はたんに否定的なものではない。筆者が指摘するように、それはそれまでは必要もなかった他者に出会う通路にもなり、他者との交差をそうして可能にする穴が無数に開かれた表面としても、都市は姿を現すからである。
(貞包英之)