編著/共著

Gabrielle van den Berg and Charles Melville, eds.

Kumiko Yamamoto, et al.

Shahnama Studies III: The Reception of the Shahnama

Brill
2017年11月
複数名による共(編/訳)著の場合、会員の方のお名前にアイコン()を表示しています。人数が多い場合には会員の方のお名前のみ記し、「(ほか)」と示します。ご了承ください。

『シャーナーマ(王書)』はフィルダウスィーが11世紀初頭に作詩したイランの「民族」叙事詩で、イスラム化以前のペルシアの王や英雄の物語を年代記形式で綴った作品である。約6万句からなるこの膨大なテクストの現存する最古の写本は13世紀のものであり、制作から2世紀の間どのように伝播されたのかはまったくわかっていない。

13世紀後半とりわけ14世紀以降、モンゴル人やトルコ人といった異邦の支配者たちは『シャーナーマ』を神話的王権の表象とみなし、豪華なミニアチュール付き写本の制作や、『シャーナーマ』の詩句が刻まれたタイルで装飾された王宮の建造を命じて、みずからの支配を正当化し、また強化しようと試みた。ティムールなどはイランの神話上の王族に連なる系譜をでっちあげたほどである。『シャーナーマ』にちなんでみずからを主人公とする叙事詩を書かせるスルタンもあれば、語り部にトルコ語訳を命じたスルタンもある。『シャーナーマ』の英雄をモデルとしたイマームの英雄叙事詩も生まれた。

ここでいう『シャーナーマ』は永遠に失われた「オリジナル」では毛頭ない。むしろ『シャーナーマ』は時代とともにアップデートされてきた。フィルダウスィーが取捨した題材を採りあげ、新たな創作や口承文芸を交えて、エピック・サイクルとよばれる叙事詩群が次々と出現し、『シャーナーマ』写本に付け加えられた。これらは「オリジナル」を求める校訂者にとってはよけいな改ざん、夾雑物でしかないが、本書の寄稿者たちの多くにとっては、まさにこの「不純さ」が支配者たちの「主観性」の表出であり、神話作用の痕跡なのである。

(山本久美子)

広報委員長:横山太郎
広報委員:柿並良佑、白井史人、利根川由奈、原瑠璃彦、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年6月22日 発行