映画を撮った35の言葉たち
映画監督には名言が多い。だから正直いって、批評や論考を読むよりも、監督のインタヴューを読む方が好きだ。作品分析よりも、作家論よりも、安易な状況論よりも、映画人の伝記や自伝の方が面白い。そう思っている人はけっこう多いはずだ。私もその口である。おそらく編者の渡辺進也氏もつねづねそう感じていたからこそ、この企画を思いついたのだろう。『映画を撮った35の言葉たち』は、35人の監督の名言集。リュミエール兄弟からスピルバーグまで、ハリウッド、ヨーロッパ、日本の監督たちの言葉が集められている。
「名言といってもいわゆる人生訓ではなく、映画づくりそのものに関わる実践的な言葉を集めようとしました」と、編者は「はじめに」で記している。やたらと執筆者の数が多いのは、よかれあしかれ本書の特徴だろう。教訓に還元しない点では一致しているとはいえ、言葉に対するアプローチはそれぞれに異なり、発言の文脈を解き明かすもの、それを独自に読解してみせたもの、はたまた誤読を含めたその後の余波を辿ったものまで、実にさまざまである。
グリフィスによる「映画は銃と女である」とか、牧野省三の「一ヌケ、二スジ、三ドウサ」などの映画の定義もあれば、「映画の中では二回死んだ。どっちも成功しなかったな」のようなイーストウッドの意味深な発言もあって、目次を見るだけでも楽しめる。ちなみに、冒頭を飾るリュミエール兄弟の言葉は── 「映画に未来はない」。はて、その真意たるやいかに。
(須藤健太郎)