写真の理論
本書の起源は、美術や写真に関する理論的テクストの翻訳を刊行したい、という月曜社・神林豊氏の提案である。いくつかの候補が検討された後、最終的には、ジョン・シャーカフスキー、アラン・セクーラ、ロザリンド・クラウス、ジェフ・ウォール、ジェフリー・バッチェン、5名の論文を翻訳、収録した写真論のアンソロジーとなった。本の主な読者として想定していたのは、写真を見たり、撮ったりすることに関心があるが、巷にあふれる技法解説書には飽き足らず、より学問的な視点からこのミディアムについて考えたいと思っている(より)若い人たちである。つまり、自分が大学に入った頃にこういう本があれば良かったと思えるようなものを作ることが目的だった。
写真論の主要な論点を網羅するのであれば、収録論文数は多ければ多いほうが良いのは当然である。他方で、想定する読者層を考えれば、本の価格を抑え、比較的容易に読み通せる分量にすることも重要であった。そこで論文数は5篇に留める代わりに、それぞれに12000字ほどの訳者解説を付すことで、翻訳と解説書のハイブリッド形式の本にした。
本書の論考はいずれも、写真というミディアムのあるべき姿について、著者自身の考えを明確に示している。これらの文章を訳しているあいだ、「おまえも自分自身の写真観をしっかりと持たなければいけない」と言われているような気がした。本書を読めば、多くの人が同じような気持ちを抱くだろうと信じている。
(甲斐義明)