単著
ユートピア都市の書法 クロード=ニコラ・ルドゥの建築思想
法政大学出版局
2017年7月
小澤京子による『ユートピア都市の書法 クロード=ニコラ・ルドゥの建築思想』は、フランス革命期を生きた建築家ルドゥのモノグラフである。建築史の領域で主に積み重ねられてきた既往研究に対して著者が選び取ったのは、ルドゥが書き残した『建築論』における言葉とイメージの分析である。旅行者の空間移動の記録という形式をとる『建築論』の記述は、実際のアルケ=スナン王立製塩所と実現しなかった計画とを断続的に往還する。超越的な記述に代わって一人称の語りが現れ、古代の異教神話、芸術理論、感情の吐露が唐突に挿入される。アルド・ロッシの『科学的自伝』を想起させるこの書法。アンソニー・ヴィドラーがヘテロトピアと名付けた文章の継ぎ接ぎを、著者は丁寧に分析してみせる。この書法こそが、ルドゥの建築都市設計手法の特質そのものだ。ルドゥによる性的身体の隠喩としての建築構想もまた、この語法で書かれている。宇宙の似姿としての建築は、ルドゥにおいて性器の似姿に変貌してしまう。宇宙と建築と身体のヒエラルキーが転倒し、異教の神々はモルタルに混ざって塗り籠められる。言語と身体と造物主の主題を一貫した射程に置くことで著者は、ルドゥ解釈に新たな光を当てている。
(後藤武)