新版 ハリウッド100年史講義 夢の工場から夢の王国へ
平凡社新書の一冊として2001年に出た『ハリウッド100年史講義』が、その後の15年の動向について書かれた新章「デジタル技術の浸透と地球規模の大域化──流動化のなかのハリウッド」を加え、新版となった。じつは、ハリウッド映画の通史を一冊で概観することのできる新書や文庫のたぐいは、たくさんありそうなものだが、この本以外にほとんど存在しない。
本書は、いわゆる名作ガイドとしての役割をきっちりと押さえつつも、既存の類書とははっきり異なるスタンスで書かれている。その独創性は、夢を売るビジネスとしてのハリウッド映画産業がそれぞれの時代に対応しながら生成変化してゆく柔軟なプロセスを、いわば生態的な視点から一挙に描き切る点にある。それゆえに、新書サイズでありながら、約100年のハリウッド映画の複雑極まる歴史を眺望しえたという納得を与えてくれる。
新章を加えた本書は、この15年の間に書かれた著者の別の書物、たとえば2014年の『制御と社会──欲望と権力のテクノロジー』とも深く関わるはずである。本書は平易な言葉で書かれているが、その核心部分は、『制御と社会』において著者が融通無碍な「制御」の在りようを分析しつつ進めた、社会とメディアと映像にかかわる概念体系をまるごと更新しようとする大胆な試みと通底しているように思われるのだ。この機会に併せて読み直すことはとても刺激的なことだろう。
(三浦哲哉)