きものとジャポニスム 西洋の眼が見た日本の美意識
日本の服飾史研究を牽引し続ける著者による本書は、これまで断片的に語られてきた、きものをめぐるジャポニスム受容に補助線を引き、17世紀以降の欧米諸国でいかにしてきものが受容され、各国で独自の発展を遂げたかということを読者に提示するとともに、コム・デ・ギャルソンなど現代の日本の服飾が世界に与えたインパクトにつながるまでの道筋を描いている。
きものの影響を受けたジャポニスムの発展は各時代・各国々によってさまざまな姿を見せるということが、著者の世界各国をめぐった長期にわたる綿密な調査により明らかになっていく。例えばフェルメールの《天文学者》(1668年頃、ルーヴル美術館蔵)にも描かれている、17世紀オランダで流行した日本風ガウン・ヤポンセ・ロッケンの言及から始まり、19世紀のモネらによるきものを着た女性の表象、そしてマネの《秋 メリー・ローランの肖像》(1881年、ナンシー美術館蔵)ではきものの柄が肖像画の背景として描かれていることなど、きものの表象の変化が語られる。それだけではなく、当時のきものの輸入や万国博覧会など、きものがいかにして欧米で手にとられるにいたったか、いかにして欧米できものに影響を受けた衣服が製作されたかということにも言及することでジャポニスムの裏側とその下地までを見通すことができる。
服飾史と美術史だけではなく、世界史や文学史などの様々な断片がジャポニスムという線によって結び付けられる本書は、日欧の交流史に新たな見取り図を提示している。
(小山祐美子)